あなたが最後では? その3

「あーあー。やりおったわ」
 暗い部屋に男が四人、車座になって座っている。そのうちの一人が、つぶやいた。彼らは中央にあるモニターを見ており、今そこにはお化け屋敷内部の映像が映っている。
「あれは山浦君の支払いだぞ」
 山浦と呼ばれた男は、もちろんですと、一度頭を下げた。三十代後半ほどの男だ。本来そう若いといえる年でもないが、同席している面子のせいで、不似合いに若い印象を受ける。
 何せ三人のうちでは先ほど山浦に話しかけた男が一番若いのだが、それでも、どう見ても定年は過ぎている。
「ところで」
山浦に、右側から男が話しかける。
「そろそろヒントなんぞ教えてくれんかね」
左側からも、追従の声が上がる。ただ正面、最年長の男だけが沈黙を保っている。
「先日、社員たちが『推理小説の落ちを言うなんて人間として許せん』といったことを話していたもので、期待の若社長としては彼らに好かれる人間でありたいと思うのです」
 はじめキツネにつままれたような表情をしていた男二人だが、最年長の男が破顔すると同時に声をたてて笑い出した。
「いやいや、なかなかよく喋りおる。近藤なぞ耳が痛いじゃろう。こりゃ今回の賭けをしきらせた儂の采配も狂いなかったようじゃの」
 右の男が顔をしかめるのにかまわず、カカカと妖怪じみた爺が笑う。
「しかし、このじじいの頭では少々分かりにくくてな、なんとかうまい塩梅に喋ってくれんもんじゃろか」
 すると山浦は慇懃にこうべを垂れ、そのまま口を開く。
「では、二つほど。一つに、人数が予定より増えております。これはスタッフのミスですね。そして二つ目に、コマはすべて出そろいました。これ以上スタッフがミスしていなければ、ですが。
「それでは」
 始めましょう、と言おうとした山浦を、正面の爺が止める。
「始める前に、ベットの確認をしたいんじゃがのう」
 山浦は、うっかりしていましたと頭を下げる。
「そうですね、今的の数を言ってしまうと殺し屋がばれてしまうので、的の数は秘密でよろしいですか?ハンターとサポーターの数は変わりません」
 爺はカカと笑いながらうなずく。
「かまわん、かまわん。一人もう一つずつ増やしてはどうじゃ。ハンターとサポーターの解答権は一度のままでいいじゃろ」
「スピーカーの使用権はいかがいたしましょう」
 山浦の言葉に、老人は初めて驚いた顔を見せた。
「すっかり忘れておったのう。一人三度遊園地の放送が使えるんじゃったか。そのままでいいじゃろう、どうせ使うとは思えんでの」
「それではベットを確認いたします。風谷様が一人、加賀様が二人、出雲様が四人でしたね。風谷様からどうぞ」
 五人、六人とそれぞれ右と左から声が上がる。山浦は復唱し、最後に正面に顔を向ける。老人はその視線を受けて、おもむろに口を開いた。
「イレギュラーも含むすべての的とサポーターじゃ」
「よろしいので?」
 山浦が念を押す。
「誰が紹介したと思っておる。半端な仕事をする奴など使わんわ」
「承りました」
 そう言って山浦は立ち上がり、一歩前に進み出る。
「それでは、ゲームの開始を宣言するにあたっていくつか開示する情報がございます。
 第一に、ハンターは変装の名手です。彼、あるいは彼女にはこのゲームの概要を説明してあり、御三方に見破られないまま全ての的をしとめることがハンターの勝利条件です。もちろん、あなた方がハンターを見破った後も生き残りゲームは続きます。
 第二に、昏倒させられた時点でサポーターは決まっておりません。しかし、いずれ決定し、以降役割が移ることはありません。また、サポーターには明らかな証があります。
 第三に、モニターの変更は御三方の合意で行ってください。モニターは指定された人物を追い続けます。一度変更した後、最低十五分は目標の変更はできません。また、ハンターがモニターに映っている間、ハンターはそのことを知ることができます。モニターの向こうで顔に手をかけてべりべりやられたら興ざめですからね。議論が紛糾するようでしたら代表を決めるためのくじが用意してあります。
 最後に、放送を使いたいときは目の前のボタンをお押しください。全体に流すことも好きなエリアを指定して流すこともできます」
 そして、山浦は大仰なしぐさで宣言する。
「では、ゲーム開始といきましょう」
 とうに臨界で、動かない表情のまま。
 こうして、参加者の誰一人知らないまま角笛が吹かれたのであった。

(担当・神藤優樹)


間章ですね。リレー小説なのに他の人のキャラを一切動かさない。しかも丸投げ。最悪ですね。
今後の展開について要求はありません。←できる身分じゃねえ