2012-01-01から1年間の記事一覧

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ  ジョン・ル・カレ

ブログで名前を書くのは初めましてです。西本歩浩です。(記事を書くのは初めてではありませんが) 長らくこのブログでは「本の紹介」カテゴリが使用されていませんでしたが、今年読んだ本を振り返る中で、ちょっとまとまった文章で紹介したい本がありました…

何も無かったらかかないでね! その13

僕と修一は、それぞれ片手にコンビニのビニル袋を持って歩いていた。 袋の中は、現在自宅謹慎をしている水野雅臣のもとへのささやかな差し入れだ。自分たちの罪もまとめて被っているようなものだと思うと、向こうから申し入れられ頼まれたこととはいえ、二人…

キャピタル・C・インカゲインその11(3)

月と星が凍てついた光を放つ空の下に、名古屋の街が広がっている。自分たちの過去改変の結果、日本一の中心性を持つに至った街が。能力者の戦闘によって早々に電気の道が断たれたため、明かりはまばらで、ビル群の大部分は真夜中の闇の中に黒々と沈んでいた。…

キャピタル・C・インカゲイン その11(2)

順仁の姿が、瞬時に稲玉士のそれに変わる。異常な興奮に満ちたその目が律子を見据えたとき、十六夜はとっさに能力を使い、時を止めた。 律子に向かって風を放とうとしていた順仁が、文字通り凍りつく。完全に動かないのを確認して、十六夜は息をつきながら肩…

何も無かったらかかないでね! その12

水野雅臣を停学処分にするという、素っ気ない記事が載った生徒会報が事件の翌日、夏休みの諸注意のプリントとともに配布された。なんでも、理由は学校の秩序を乱す行為をしたからだということだが、例の絵は水野先輩の仕業だというのは事件直後から噂になっ…

キャピタル・C・インカゲイン その11(1)

樹、という名前が、士の頭に一瞬引っかかった。かすかに眉を寄せてその引っかかりをたぐった士は、はっと目を見開いた。士の級友の矢羽樹、能力者であるらしいというその一点のためだけに士が気にかけている彼と、同じ名だったからだ。 だがそんなもの、ただ…

『コンプレックス』 すばる

東雲和花さまへ このような手紙を突然受け取り、大変困惑しておられるかもしれません。しかし僕には、どうしても伝えたいことがあるのです。残念ながら、このような時の、気の利いた言葉は知りません。ですので、単刀直入にいいます。あなたのことが好きです…

キャピタル・C・インカゲイン その10

足が痛む。B‐Aが、否、楓が足に違和感を感じたのは、彼の意識を制圧してすぐのこと。左足がぎしぎしと軋む。一歩足を進めると、かちゃかちゃと人の足音ではない音がする。最初は特に思うところがなかったが、嫌でも気づいた。 義足か。 義足部と断端部の境目…

『Acta Est Fabula』 エンディミオン

いつからだろう。世界がこの、名も無き病に蝕まれ始めたのは。 気付く間もなかった。まるで季節が変わる時の様に至ってさり気なく、それでいて確実に、病は世界を侵食していった。変化を感じる者が出始めた頃には既に遅かった。もうこの世界は、決まりきった…

何も無かったらかかないでね!その11

藤村雪帆にとっては水野雅臣の行動など大した痛手ではなかった。羊の群れの番犬をしているわけではないのだから、その中にごくまれに羊でない何かが混ざり込んでいたとしても予想通りでしかない。しかし、だ。 「意外でしたね」 瀬々重祢の言葉に雪帆はキー…

名大祭で部誌『泡』vol.12を販売します

今年も名大祭で部誌『泡』を販売します。 今回は一冊なんと300ページ越えの大ボリュームです。個性豊かな作品が集まっています。 名大祭にお越しの際は、ぜひ文芸サークルにお立ち寄りください。 日時 6/9(土) 10:00〜18:00 6/10(日) 10:00〜16:00 場所 …

キャピタルCインカゲイン その9

「エリック!」 クラリスは体を移すや否やテーブルの最奥で食事を摂っているエリックに食って掛かった。 「バレンタインが暴走した。それどころか…」 「クラリス、君の分も用意させた。報告は夕食の後でいいだろう?」 「……」 彼の余裕を含んだ笑いから、ク…

『Colorful White 〜RGB〜』   御伽アリス

プロローグ あのころ見てた あの光 ひとつ消えれば 色変わり カラフルな白 叶わない 散る儚さに 詩句もなし 1章 少し寒い3月の春の日。遠くの山の頂にはまだ雪が残っている。朝の日の光を浴びながら、学校の正面の玄関前、ピリピリした空気の中に私たちは…

『イラスト先行・競作小説』について

【目次】 K 『悪の勢力』 御伽アリス 『Colorful White 〜RGB〜』 エンディミオン 『Acta Est Fabula』 すばる 『コンプレックス』 17+1 『暮れなずむエクトプラズム、鶯とポルターガイスト』 イラスト先行・競作小説とは、『はじめにイラスト担当の方にイ…

何も無かったらかかないでね! その10

――最近、なんだかクラスの雰囲気がよくなった。 いや、一年二組だけでなく、学校全体の雰囲気が。廊下を歩いていて、特にそう思う。外は今日も雨なのに憂鬱そうな顔をした生徒はどこにもいない。もちろん僕の目に映った範囲内でだけど。 みんな溌剌としてい…

企画小説 『悪の勢力』 by K

「相良子のやつめ、あんなこと言っといて……結局なんにもないじゃない! おまけに仕事が増えたし!」 朱鷺子はぷりぷり怒りながら校庭を歩いていた。その脳裏では当の友人が相変わらず屈託ない笑顔を見せ続けている。 「ね、知ってる? 校庭の隅っこに生えて…

サークル説明会の日程です。

以下の日程でサークル説明会を行います。是非お越しください。 4/19木 18:15〜 C22教室 4/20金 16:30〜 S11教室 4/23月 18:15〜 C33教室 4/24火 18:15〜 S11教室 4/25水 15:00〜 C35教室 (教室はすべて全学教育棟です) また、現在このブログでは以下のリレ…

何も無かったらかかないでね!その9

一年一組。帰りのホームルームの直後、担任から例の生徒会アンケートが配布された。他のクラスでも今頃同じことをしているはずだ。――いや、「はず」ではなくて絶対に。放課後、生徒を解散させる前に全校一斉に行うように指示したのは、他ならぬ私自身なのだ…

キャピタルCインカゲイン その8

ようやく見つけた。花梨。あんたのせいで、みんな死んだのよ。タワーが倒れてきたとき、あんたが自分を守るために力を使ったから、そのせいで。もしかしたら助かったかもしれないのに、あんたが、自分が助かりたいがためにみんなを殺したの。そのせいで、私…

何も無かったらかかないでね! その8

すぅ、と息を吸い込み、可能な限りはきはきとした声で話し出す。 「みなさん、こんにちは。新生徒会長を務めさせて頂くことになりました、藤村雪帆です──」

何も無かったらかかないでね! その7

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン――。 朝礼の時刻を告げるチャイムが鳴り、ゴ−ルデンウィーク明けの騒々しさで溢れていた体育館が静まり返る。それと同時に緞帳が上がり、誰もいない舞台が顕わになった。椅子が四つ並んでいる。

キャピタル・C・インカゲイン その7

<22日、夜、仙台、繁華街> 稲玉士、爆発音の方角へ駆けつける 炎上するカプセルホテル、 人込み、雑踏、 消防、やじうま、報道陣などで騒がしい

キャピタル・C・インカゲイン その6

倉庫を包む炎はまるで収まる様子もなかった。それどころかいよいよ激しく燃え盛り、火の粉を散らし、夜空を禍々しい赤色に染め上げている。埠頭に座り込んでぼんやりとそれを眺めていた樹たちだったが、どこか遠くから消防車のサイレンが響いてくるのを聞い…