何も無かったらかかないでね! その7

 キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン――。
 朝礼の時刻を告げるチャイムが鳴り、ゴ−ルデンウィーク明けの騒々しさで溢れていた体育館が静まり返る。それと同時に緞帳が上がり、誰もいない舞台が顕わになった。椅子が四つ並んでいる。

 明らかにすくみ上がっている様子の校長がいそしそと壇上に現れた。これから生徒会役員の任命を行うというアナウンスが入り、舞台袖から生徒が平然と椅子へ向かう。
 藤村雪帆、日下部智子、鮎川浩記、そして夏目有紗……。
 一体どうなっているんだろうか。水野雅臣は夏目有紗の姿を目で追った。彼女はなぜ、生徒会になど立候補したのか。あの、生徒会なんかに…。壇上の彼女の顔からは、希望でも自信でもなく、ただ強張った表情しか窺えなかった。


 藤村さんだけじゃなくて、夏目さんまで生徒会役員かぁ…。僕は隣の修一に気付かれないように小さく溜息をついた。最近、夏目さんは傍から見ていても分かるほどイライラしている。その様子はあの時の夏と似ていて、棚上げしていた疑心が再び現れ、責め立てられているような気になる。お前は問題から逃げているんだ、自分と向き合え、と。僕は正面をずっと見ていたが、任命状を受け取る夏目さんは目に入っていなかった。


 夏目有紗は任命状を受け取ると、椅子に浅く腰掛けた。眉にしわを寄せないよう注意を払うと、自然と手に力が入ってしまう。有紗は深呼吸し、体育館を見渡した。――これから、私の王国をつくるのよ。雪帆の自信に満ち溢れた声が蘇る。
 中央館に初めて足を踏み入れ、生徒会室の扉を勢い任せに開けた時のこと――。雪帆は一番奥の椅子に座り、まるで待ち受けていたかのように入口を見つめていた。有紗が林達弘の書記辞退について問いただそうとすると、彼女は楽しそうにそう言った。それがどういう意味なのか、いくら尋ねても雪帆は答えなかった。ただ、私の王国をつくると言うだけであった。
 雪帆は何をたくらんでいるのだろうか。以前は手紙で互いの近況や悩みを伝え合っていたというのに、同じ高校に入った今では、目の前で生徒会長として抱負を述べている彼女が何を考え、何をしようとしているのか、有紗には全く分からなくなっていた。


(担当:小衣夕紀)
アップが遅くなってしまい、大変申し訳ありません…。
つなげようとした結果、何も進んでいない感じになってしまいました。そして短い…。
次は確か、ikakasさんです。どうかよろしくお願いします。

P.S.何度も書く書く詐欺をしてしまい、本当にすみませんでしたm(__)m