リレー小説

ななそじあまりむつ その8.1

美味しくないんだろうな、というのがミヨの感想だった。 あまりにも唐突な宣告にパニック状態になった頭が下した正常ではない判断だった。味も何も関係ない。気にするところは他にもある。 「食、う」 「はい」 目の前で依然としてにっこりと微笑む白装束の…

リカラス その七

大学。 独立行政法人。 学問研究機関。 大学。 俺はここに居場所があるとは感じられなかった。 嘗ての俺は、この場所に疎外感を感じ、違和感のままに大学を拒否した。避けて、寄り付かなくなった。 しかし、頭の片隅に置いてある懸念事項というものは無意識…

ななそじあまりむつ その7

* * 虚空蔵菩薩。 ミヨやスケイチの生きる時代には既に成立していた十三仏信仰の主尊であり、智慧と福徳をつかさどる仏様として広く知られる。姿形としては、蓮華座に座し、五智宝冠を頂き、右手に智慧の宝剣、左手に福徳の如意宝珠を持っている。知識や記…

「なぜこんな挑戦を?」4

変わり果てたダイニングに足を踏み入れた和志は呆然と立ち尽くした。両親の姿は無い。共働きの二人が外出済みなのはいつものことだったが、別の明らかな異変が彼の目の前に現れていた。

リカラス その五

まったく同じものを見ても、人によってその見え方が違う、ということはある。例えば錯視。一つの絵を見ても、あるものはそれを老人と呼び、あるものは少女と呼ぶ。錯視は色の認識を変えることも可能だ。周囲の配色や影を利用することによって、同じはずの色…

ななそじあまりむつ その6

その晩、白装束の男は夕食の席に姿を現さなかった。 次の日、そしてまた次の日も。 ここ数日間、ミヨたちは屋敷で大人しくしていた。男が現れたら、ミヨが脱出を試みたこととスケイチが蔵に入ってしまったことを謝って、どうにかして許しを乞おうと考えてい…

「なぜこんな挑戦を?」 3

立花文がいない。 そのことに和志はひとしきり安堵しつつも、どこか得体のしれない不安に襲われた。 ごくり、唾とともにそれを飲み下し、今日は早く本を借りて帰ろう、と心に決める。 日に焼けた紙の匂い、薄く積もった細かい埃の匂い、古びたインクの匂い。…

ななそじあまりむつ その5

二十三日目。スケイチは瞑想にふけるミヨを見ていた。部屋の真ん中で正座をして、外の世界を受け付けないといった様子だった。 白いものを探して答える作戦は失敗に終わり、なぞかけへの手がかりは、途切れてしまった状態にある。ミヨは今も彼女なりに作戦を…

「なぜこんな挑戦を?」 2

目を覚ますと、わきには有名な作家が書いた、話題になっている推理小説が無造作に置いてあった。 表紙と裏表紙は透明なテープが貼られ、カバーが取れないようになっている。さらに裏表紙には自分が通う学校の名前に続いて「図書館」の三文字とバーコードが印…

リカラス その四

「……マジかよ」 いっぺんに色々なことが起こり過ぎて、すっかり忘れてしまっていた。電化製品には、充電が必要だ。人間にだって、飯という充電が必要だ。俺にだって、休息が必要だ。 力んでいた肩を下ろし、俺はソファに身を投げ出した。先ほどまで布団のよ…

ななそじあまりむつ その4

スケイチは思わず後ずさりをした。目の前に立つ白装束の男から放たれるただらなぬ威圧感に、押しつぶされてしまいそうな気分だった。全身の筋肉が強張り、身体を上手く動かすことが出来ない。口を開くことすらままならない状態だった。 「ここでなにをしてい…

ななそじあまりむつ その3

スケイチの村にはある風習があった。山の麓の岩壁に御印が現れたら、神に村人を一人供えなければならない。そして、生まれたばかりの赤子を一人、次の贄として麓の小さな洞窟で他の村人と関わらないように育てるのだ。

「なぜこんな挑戦を?」 1

神谷和志には悩みがあった。それも二つ。

リカラス その三

・・・ 「それで?」 「……………………」 「ぱっと思いついた頼れる人間がボクだけだった、と自意識過剰しても良いのかな?」 画面越しの相手の声に対し、ぐうの音も出せずに、ただ首肯するしか出来ない俺だった。

リカラス その二

誰かが部屋のなかにいる……? 俺のアパートはしがない1Kの学生アパートだ。しかも居間が六畳、家賃三万。だから、玄関まであがれば部屋に何人くらいいるか大体想像がつく。どうやら一人だけのよう。まさか泥棒か、と思ったけれど、綺麗に靴が並べてあるのが…

ななそじあまりむつ その2

あの蔵へ行った日から三日の間、ミヨはなぞかけの回答をすることができなかった。男はミヨとの食事には現れたが、食事を済ませた後はさっさと立ち去ってしまうのだった。ただ、男は欲しいものはあるかと食事中に尋ねてきたので、答えておけばすぐにその物を…

リカラス その一

発端は、一匹の猫だった。リカラスという名前で、全身真っ白の、どこにでもいそうな猫。

ななそじあまりむつ その1

* * 昔々、あるところに、ミヨという名の年ごろの娘がいた。この物語が語られる時点からどれほど昔の出来事なのか、そこで生きているミヨには知る由もない。当然のことだ。しかし、こちらは当然でないことに、あるところとはどこなのか――自分がどこにいる…

バナナチップ その8(終)

確かにベンジャミンは腹が減っていた。もう一日以上は交替で車を運転していたし、その間ずっとわがままなアシュリーとマイペースなギルバートに挟まれていたのだ。そして彼が出発する前にデリで買い込んでいた食料のほとんどは、彼が食べる前に二人の腹の中…

故障かな、と思ったら 番外編

・・・ 深井由芽の右足が弾け飛んだのは、彼女が十一歳の時だった。 ありふれた話である。彼女には何の非もない。ただ通学道に一台のトラックが突っ込んできただけのこと。いくら将来有望の陸上選手でも、避け切れる訳がなかった。 そう、彼女はかつて長距離…

バナナチップ その7

「どうすればいいの?」 「やはり相手のいることだからね。相手の好むものを作らないと。相手を喜ばせることが肝心なんだ。」 どうやらルーシーは、ベンジャミンと二人で食事をするという考えが、いたく気に入ったようだった。 「相手を、ね…」 ルーシーは深…

バナナチップ その6

もしも生きて帰ることができたなら、スマホは死ぬまでマナーモードにしよう。 そんなことを考えながら、ベンジャミンは調理台の陰から立ち上がる。 「うふふっ」ルーシーはとても楽しそうだ。「やっと見つけた」 「……見つかっちゃったね」ベンジャミンは肩を…

何も無かったらかかないでね! その15.5(番外編)

※時系列としては、その15の直後に位置するエピソードです。 ※その16(最終回)の展開を示唆する内容が含まれています。 「僕は――」 そう切り出した時点では、何を言うのか決まっていなかった。言いたいことは山ほどあるつもりだったけど、この会合で藤村…

故障かな、と思ったら その8(終)

「ね、ねぇクソ野郎、ソトちゃんを助けたいの?」 おどおどとしながらも汚い口調でサナがカズキに尋ねた。レヴィオストームに近づいたハナイが消えてから、数分が経過したところだった。ドーム状の空間の中央では、もう叫べなくなり始めているスズキがそれで…

故障かな、と思ったら その7

魔法少女。 幼い女の子たちの憧れの存在。 煌びやかに変身を遂げ、杖を一振りすればどんなことでもきらっと解決してしまう。 彼女たちが望み、もたらすのは二つ。 奇跡と希望。この二つ。

故障かな、と思ったら その6

魔神はそれぞれが天災を司っている。嵐、津波、雷、地震、噴火、疫病、旱魃。それらはいずれも、圧倒的な暴力でもって人類に牙を向く、まさに暴虐の権化そのものだ。

バナナチップ その5

一方そのころ店の横手では、木箱の下敷きになった老爺がちょうど息を引き取るところであった。 彼の名前はスティーブン・グローブランド。『Banana Chips』の近隣に住む、心優しい男であった。年齢のせいかすこしボケているところはあったが、若い身空であり…

バナナチップ その4

僕とギルバートは、少女に二階の居間へと案内された。中は暖かく、非常に快適だ。僕は至極丁寧に切り出した。 「やあ、ありがとう。本当に助かったよ。ぜひとも向こうに戻ってから、改めてお礼がしたいからアドレスを教えてくれないか?」 かなり直球ではあ…

何も無かったら書かないでね! その16 《最終回》

かちゃり、と胸ポケットの中で金属音がした。 「中学のときの友達がさぁ──」 目の前の美弥子は音になど気づかない様子で話を続けている。私はさり気なく胸元を手で抑え、それで? と話を促した。 「その子の高校だと、雰囲気がオープンっていうのかな? そう…

故障かな、と思ったら その5

ハナイの髪が爆散した理由には、おおよそ四つある。 まずは、当然、彼女自身の実力不足があげられる。魔法少女のための実力に関して、彼女は未だに不完全な部分があるのだ。そのため、変身失敗というミスが生まれた。けれど、彼女だけなれば。ここまで酷い状…