リレー小説

故障かな、と思ったら その4

第四章 ユメは走っていた。村を外れ、舗装すらされていない道を。 その顔は涙に濡れていた。涙どころか鼻水も出てしまっていて、濡れているというよりぐちょぐちょで汚いのだがそれはさておき、とにかく彼女は泣いていたのだ。 その理由は簡単で、彼女の従え…

バナナチップ その3

ベンジャミンは、夜空を見上げた。星が見たかったわけではない。ちょっとした現実逃避をしたくなったのだ。今の彼には、爆弾処理班の気持ちがよく理解できた。 原因は、アシュリーだ。 彼女は、親指の爪を噛んでいた。 イライラがある閾値を超えると、アシュ…

故障かな、と思ったら その3

三章 ハナイとソトとサナの三人は暗い洞窟の中を進む。 「そもそも、アセラってどんな物なんだろう?」 サナが疑問を口にする。それに対して、ハナイもソトもはっきりと答えられない。アセラの管理が魔法少女の仕事とは言っても、普段は山の表面にある杭にエ…

キャピタル・C・インカゲイン その13(2) 《最終回》

白い廊下はまた左に折れた。そしてなおも続く。花梨は息苦しさを覚えて、胸を押さえた。 「大丈夫か?」 という士の呼びかけに、やや無理をしたような笑みで答える。 「ちょっと、苦しくなっただけ。うん、平気」 二人はぐるぐると回転を続けるような世界で…

キャピタル・C・インカゲイン その13(1)

――そしてその手紙はきっとあなたを不幸にするでしょう ――そして種は蒔かれ、大きな争いが芽吹くでしょう ――そしてそれぞれの思惑、夢、喜怒哀楽、愛は時の流れによって淘汰されるでしょう ――そして世界は、最後の二つの種を選ぶでしょう ――そしてそれは、世…

バナナチップ その2

ルーシーの目の前にある皿の上には四つのチップスが並んでいた。大きさは少し違うものもあるけれど、全て綺麗なきつねいろに揚がっていた。これならお客さんに出しても恥ずかしいことなんてない。 「でも、まだ足りないわ…」

故障かな、と思ったら その2

二章 信じること、それが強さだ。 一点の光もない。何も見えない。すぐそばにいるはずの顔すらまったく見えないし、どこに壁があるのかもわからない。ごつごつとした岩に覆われた足元が、ひどく不確かなものに思われる。地面が、揺らぐような錯覚さえ覚えた…

キャピタルCインカゲインその12(2)

空は白く、澄み渡っている。肌を刺すような寒さが全身に染み渡る。だがまもなく、そんなことなど感じられないほどに、自分たちは熱く燃え上がるだろう。 「敵情はどうなっている?」 「すでに顕現したホワイトキャッスルより敵部隊が送り込まれています。ど…

キャピタルCインカゲインその12(1)

白み始める空の元、地面が、世界が揺らぐ。崩れ落ちてきたコンクリートの塊が、すぐそばで砕けた。飛んできた破片が体を打つ。もうだめか。そう思った。仕方がない。元から命など捨てる覚悟。ただ、できることならあなただけは無事でいてほしいと、わが身を…

故障かな、と思ったら

【故障かな、と思ったら】 一章 昔の堕胎方法として、女性の膣内を熱した鉄棒で掻き混ぜる方法がある。 このことを話すと、大抵の人間は苦虫を噛み潰したような顔をした。 その表情を見るのが彼女の祖母は大好きだった。要は変人だったのである。 それでも、…

バナナチップ その1

ここは北米大陸でもっとも長閑なところだと、住民の誰もが思っていた。夏は蒸し暑く頻繁に雨が降る土地ではあるが、秋から冬にかけてはまあまあ過ごしやすい。何かと不便なことばかりの田舎町だが、助け合う機会が多いためかひとびとの交流は深い。事件らし…

何も無かったら書かないでね! その15

「終わりにしよう。藤村さん、もう君の計画が成功する見込みはない。全て元通りに。君の手で振り出しに戻してくれないか」

何も無かったらかかないでね! その13

僕と修一は、それぞれ片手にコンビニのビニル袋を持って歩いていた。 袋の中は、現在自宅謹慎をしている水野雅臣のもとへのささやかな差し入れだ。自分たちの罪もまとめて被っているようなものだと思うと、向こうから申し入れられ頼まれたこととはいえ、二人…

キャピタル・C・インカゲインその11(3)

月と星が凍てついた光を放つ空の下に、名古屋の街が広がっている。自分たちの過去改変の結果、日本一の中心性を持つに至った街が。能力者の戦闘によって早々に電気の道が断たれたため、明かりはまばらで、ビル群の大部分は真夜中の闇の中に黒々と沈んでいた。…

キャピタル・C・インカゲイン その11(2)

順仁の姿が、瞬時に稲玉士のそれに変わる。異常な興奮に満ちたその目が律子を見据えたとき、十六夜はとっさに能力を使い、時を止めた。 律子に向かって風を放とうとしていた順仁が、文字通り凍りつく。完全に動かないのを確認して、十六夜は息をつきながら肩…

何も無かったらかかないでね! その12

水野雅臣を停学処分にするという、素っ気ない記事が載った生徒会報が事件の翌日、夏休みの諸注意のプリントとともに配布された。なんでも、理由は学校の秩序を乱す行為をしたからだということだが、例の絵は水野先輩の仕業だというのは事件直後から噂になっ…

キャピタル・C・インカゲイン その11(1)

樹、という名前が、士の頭に一瞬引っかかった。かすかに眉を寄せてその引っかかりをたぐった士は、はっと目を見開いた。士の級友の矢羽樹、能力者であるらしいというその一点のためだけに士が気にかけている彼と、同じ名だったからだ。 だがそんなもの、ただ…

キャピタルCインカゲイン その9

「エリック!」 クラリスは体を移すや否やテーブルの最奥で食事を摂っているエリックに食って掛かった。 「バレンタインが暴走した。それどころか…」 「クラリス、君の分も用意させた。報告は夕食の後でいいだろう?」 「……」 彼の余裕を含んだ笑いから、ク…

何も無かったらかかないでね! その10

――最近、なんだかクラスの雰囲気がよくなった。 いや、一年二組だけでなく、学校全体の雰囲気が。廊下を歩いていて、特にそう思う。外は今日も雨なのに憂鬱そうな顔をした生徒はどこにもいない。もちろん僕の目に映った範囲内でだけど。 みんな溌剌としてい…

何も無かったらかかないでね!その9

一年一組。帰りのホームルームの直後、担任から例の生徒会アンケートが配布された。他のクラスでも今頃同じことをしているはずだ。――いや、「はず」ではなくて絶対に。放課後、生徒を解散させる前に全校一斉に行うように指示したのは、他ならぬ私自身なのだ…

キャピタルCインカゲイン その8

ようやく見つけた。花梨。あんたのせいで、みんな死んだのよ。タワーが倒れてきたとき、あんたが自分を守るために力を使ったから、そのせいで。もしかしたら助かったかもしれないのに、あんたが、自分が助かりたいがためにみんなを殺したの。そのせいで、私…

何も無かったらかかないでね! その8

すぅ、と息を吸い込み、可能な限りはきはきとした声で話し出す。 「みなさん、こんにちは。新生徒会長を務めさせて頂くことになりました、藤村雪帆です──」

何も無かったらかかないでね! その7

キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン――。 朝礼の時刻を告げるチャイムが鳴り、ゴ−ルデンウィーク明けの騒々しさで溢れていた体育館が静まり返る。それと同時に緞帳が上がり、誰もいない舞台が顕わになった。椅子が四つ並んでいる。

キャピタル・C・インカゲイン その7

<22日、夜、仙台、繁華街> 稲玉士、爆発音の方角へ駆けつける 炎上するカプセルホテル、 人込み、雑踏、 消防、やじうま、報道陣などで騒がしい

キャピタル・C・インカゲイン その6

倉庫を包む炎はまるで収まる様子もなかった。それどころかいよいよ激しく燃え盛り、火の粉を散らし、夜空を禍々しい赤色に染め上げている。埠頭に座り込んでぼんやりとそれを眺めていた樹たちだったが、どこか遠くから消防車のサイレンが響いてくるのを聞い…

キャピタル・C・インカゲイン その5

――覚書 ・特記事項 名城線左回りで時間を遡行できるというのは事実で、適切な速度と遡行質量を合わせてやれば目的の時間に放り出されることがここまで一連の実験から明らかになった。 *詳しくは彼女の実験ノートを参照すること これを私の能力と応用させる…

キャピタル・C・インカゲイン その4

土曜日の朝、テレビのスピーカーが言った。「選ばれた者たちよ、約束の地はトウキョウである。始まりの時は近い。いざ、トウキョウへ!」 樹は立ち上がった。向かう先は、姉の部屋だ。選ばれた者たち、とはあの手紙によって力を得た者たちであることは考える…

何も無かったらかかないでね! その6

『林達弘が辞退した』 そのニュースは学校を激震させるほどの威力はなかったけれど、そのことによって生じた事態は十分に生徒たちに衝撃を与えた。特に、常に一組が絶対、という状況に慣れた上級生にとっては、非・一組の生徒の生徒会入りは大事件だった。 …

キャピタルCインカゲイン その3

姉がいなくなった日から、樹は叔父夫婦と一言も会話を交わしていなかった。彼をこの家族へ繋ぎ止めていた唯一の楔が外れてしまっただけでなく、この夫婦にとっても、所謂希望の光という奴が消え失せてしまっていた。

何も無かったらかかないでね! その5

ガラリと乱暴な音を立て、後方の扉が突然開け放たれた。教室内にいた生徒たちは何事かと一斉に顔を上げる。 「あの、開票作業中に一般の生徒は——」 一番ドアの近くにいた女生徒が腰を浮かせたが、その口から「入室禁止」の単語が紡がれる前に固まってしまっ…