故障かな、と思ったら その3

  三章
 
 
 ハナイとソトとサナの三人は暗い洞窟の中を進む。
「そもそも、アセラってどんな物なんだろう?」
 サナが疑問を口にする。それに対して、ハナイもソトもはっきりと答えられない。アセラの管理が魔法少女の仕事とは言っても、普段は山の表面にある杭にエネルギーを打ち込むだけで、アセラ本体を目にすることはない。今までアセラのある場所まで直接出向く用事などなかったから、三人ともアセラがどんな外見をしているのか知らないのだ。
「それが分からなきゃ、探しようがないじゃねえか」
 呆れたような声を出すソトに、ハナイが胸を張って言う。
「大丈夫です」
「どこからその自信が湧いてくるんだよ」
「わたしたちは魔法少女ですよ? アセラがあればすぐ分かります」
「そもそも今は、アセラではなく出口を探すべきだけどな」
「ハナイ、アセラについて知っていることは?」
 サナの問いに、ハナイはまた胸を張る。
「何も知りません。どんなものなのか、皆目見当もつきません!」
「だから何でお前は自信たっぷりなんだよ!」
 ソトがイライラした様子でハナイを殴ろうとする。
「暴力は反対です」
「うるさい。いいか、アセラはハナイのばあちゃんが発明したもので、山に埋まってる石ころを珍しい宝石に変える魔法のような物体なんだよ。ウキエ地方には十二のアセラがあると言われている。んで、その中でも一番デカいのがこの洞窟の奥にあるんだろ。それくらいのことは準備の段階で事前に調べとくだろ普通」
 もちろんハナイやサナはお菓子をカバンに詰め込む作業に追われていたため、そんなことは調べていなかった。
「でも結局アセラを見分ける方法は分からないまま、だよ?」
 サナは不安そうに言う。ソトは文句を言われたような気がして、強い口調で言い返す。
「うるさいな。そんなもんは……行けば分かるんだよ!」
「ソトだって、わたしと同じこと言ってるじゃないですか」
 ハナイとサナはくすくすと笑う。
「お前と一緒にするな!」
 ソトは舌打ちをして、不満そうな顔で歩いていく。ハナイとサナはくすくす笑いのままソトについて行く。そんな感じでしばらく洞窟を進んでいくと……。
 
――――――――――――――――――――
【スタート】
〔すごろく形式でお話が進みます。サイコロや、トランプなどの1〜6の数字が書かれたカードを使ってお楽しみください。上下のラインの間が1マスとします〕
「いやいや、急にスタートされても困るんだけど」
 とソトはぼやく。
「くぅ、仕方ありません。さっさとゴールまで行くのです!」
 ハナイの号令で三人はまた歩き出す。
〔サイコロを振って出発!〕
――――――――――――――――――――
「おい、のんびりしすぎじゃないか?」ソトがサナに向かって言う。
「荷物が、重かった、かな?」とサナはよたよた歩く。
「お菓子ばっかりたくさん詰め込みすぎなんだよ」
「そういう時は歌でも唄いましょう。気分が軽くなります。気分が軽ければ荷物も軽くなります」
 そう言ってハナイはアババ、ナンバナナ〜と変な歌を唄い出す。明らかに音が外れている。
「下手くそだなあ……」ソトのイライラはますます募っていくばかり。
――――――――――――――――――――
 突然ハナイがうずくまる。
「うぅ……」
「おいどうした! 大丈夫か?」
 一応年上のソトは心配してハナイに駆け寄る。意外にこういうお姉さんな部分も持ち合わせているのがソトという少女だった。
「お腹の調子が悪いのです」
「腹が痛いのか? どうしよう……」
 その時、横からサナが何かを差し出した。
「クレープ食べる?」
 それを見てハナイは目を輝かせ、夢中でかぶりつく。
「腹が減ってるだけかよ。どんだけお気楽なんだお前は。サナも、持ち運びしにくいクレープなんか持って来るな!」
〔お菓子を食べて元気になった! 2マス進む〕
――――――――――――――――――――
「そう言えば、ソトはどうして魔法少女になろうと思ったんですか?」
 唐突にハナイが尋ねる。
「アタシはなりたくなんかなかったんだよ、こんなダサい仕事してられるか」
「なんですとぉぅ!」
 怒るハナイに、ソトは冷めた目を向ける。
「お前はばあちゃんに憧れて、魔法少女になりたくてなったんだよな。おめでたい奴だ」
「ふん、ソトには分からずとも良いですよ。ところでサナはどうして魔法少女に?」
 急に話を振られたサナは少しびっくりした表情をする。
「へ、あ、気付いたらなってた、かな? 他にできそうなこともないから?」
 その答えにハナイとソトはため息をつく。二人のため息の意味合いは少し違うのだろうけれども。
――――――――――――――――――――
「ねえ、暗いよ? 暗いのは怖いよ? どこに出口があるの?」
 サナが恐怖のあまり騒ぎ立て始めた。
「洞窟なんだから暗いに決まってるだろ」
「オバケが出そうですね……」
 ハナイがぼそりとこぼしたつぶやきを、サナは聞き逃さなかった。
「ふぇぇ! オバケ?」
「余計なこと言うなよ、面倒くせぇなあ」
「大丈夫ですよ、オバケが出てきたらわたしがぶっ殺してやりますから」
「いや、ほとんどのオバケはもう死んでると思うんだけど……」
――――――――――――――――――――
 三人が歩いていると、ふいにランプの明かりが消えた。
「うわぁぁぁ、ど、ど、どどど……」
 サナは頭を抱えてその場にへたり込む。
「油が切れたのかな、とにかく火を付け直そう」
 ソトはごそごそと荷物をあさってマッチを取り出し、ランプに火を灯す。
 再び洞窟の中に明かりが戻った。サナはまだしゃがみ込んでいる。
「サナ、ほら、お菓子です」
 ハナイが荷物の中からお菓子を取り出す。
「腹が減ってうずくまってるわけじゃねぇよ。ほら、さっさと行くぞ」
 サナもようやく立ち上がり、のろのろと歩き出す。
〔ムダに時間を使った。1マス戻る〕
――――――――――――――――――――
「あ、魔物が、いるかも……?」とサナが小さな声で言った。
 その直後、暗闇の中から何かの音が聞こえた。
「何かいるみたいです」
 三人が身構えると、目の前に大きな影がどしんと足音を立てて現れた。
「イノシシだ!」
「ソト、早く変身してあいつをやっつけてください!」
「えぇ、アタシが? 面倒くせぇ……」
 渋るソトの脇から、サナが進み出た。
「へんしん!」
 サナのペンダントが光り、彼女の体が光に包まれる。そしてそこに現れたのは。
「クマの着ぐるみ……」
 説明しよう! いたって普通の少女サナは魔法少女に変身することで、元の姿とは似ても似つかぬデカいクマになるのだ! ほっぺの辺りが赤く、かわいいと言えばかわいい。どこかで見たようなクマの着ぐるみだ。これでどう強くなるのかは不明。着ぐるみがデカいのでサナは動きづらい。その外見のおかげで人気者にはなれるかもしれない。
「あれでイノシシに勝てるんでしょうか」
 ハナイは心配そうにクマ(サナ)を見る。
「いざ、しょうぶ〜」と、くぐもったサナの声が聞こえた。
〔サイコロで1、2が出たら負け、3マス戻る。3〜6が出たら勝ち、そのまま〕
 
 本物の熊と思ったのか、イノシシは逃げていった。
「すごいです、サナ。さあ先を急ぎましょう」
――――――――――――――――――――
 しばらく行くと、道が二手に分かれていた。
「うわわ、どっちに行く?」
「とりあえず左だ」
「いえ、右です」
 なぜか意見が対立するソトとハナイ。
「左だろ!」
「右ですよ!」
 何の根拠もないはずなのにどちらも譲らない。仕方がないのでこういう場合……。
〔サイコロで1〜3が出たら2つ進む。4〜6が出たら3つ進む〕
――――――――――――――――――――
 三人は順調に進んでいる。ものごとが上手くいっている時は気分も軽く、足取りも軽やか。
「アセラがどんなものなのか、予想してみましょう」
 ハナイがそう言うと、ソトは少し考えるしぐさをする。
「そうだな、やっぱりすごい装置なんだろうから、デカい機械みたいな物なんじゃないか?」
「いえ、わたしはもっと綺麗な、宝石の親分みたいなものが魔法の力で周りの石を宝石に変えているんだと思います。偉大な魔法少女だったおばあちゃんが作ったものなんだから、素晴らしいものに決まっています」
 二人の意見を聞いて、サナはうーんうーんと考え、
「きったないオッサンみたいな物が岩に埋まってるんじゃないかな?」
「な、なんですっとぅ! きったないオッサン?」
 怒るハナイに、サナがごめんごめんと謝る。ソトは傑作だと言って笑い転げた。
――――――――――――――――――――
「およよ?」
 いきなりサナが何かに反応した。
「びっくりした、急に変な声を出すんじゃねぇよ」
「あれを見てください」
 そう言ってハナイが指差す先は、落盤した後のような岩石の壁が行く手を塞いでいる。
「行き止まりですか。これくらいなら、わたしが変身してぶっ飛ばせばすぐ通れます」
「無駄なことに力を使うな、馬鹿。戻るぞ」
「ば、ばかですと……っ!」
〔引き返す。1マス戻る〕
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「ん、そろそろ、お菓子の時間? かな?」
「時間です時間です。お菓子の時間です」
 サナとハナイはよだれを垂らしながらカバンを開けて、中身を探っている。まるで犬だ。
「おい! 菓子なんか食ってる場合か。そんなことしてる時間なんてないんだよ」
「じゃあ急いで食べましょう!」
「そういう問題じゃ……」
「ソトはいらないの? お菓子」
「いるかそんなもん……」
「おいしいですのに。もしかしてダイエット中ですか? かわいそうです。ソトの分もわたしとサナが食べておいてあげます」
「ええい、じゃあアタシも食べる!」
 ハナイとサナはニヤニヤ。ソトはむすっとした顔。もはやいつものパターンと化している。
〔お菓子を食べて元気になった! 2マス進む〕
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 先頭を行くソトが立ち止まる。その後ろを歩いていたハナイとサナが相次いで自分の前の人間に衝突する。
「何ですかいきなり。車は急に止まれませんよ」
「いつからお前らは車になったんだ。そんなことより、ここはさっきも通った場所じゃないか?」
「そう? そうかもだし、そうじゃないかも?」
「道に迷ったということですか。まったく、迷子とはカッコ悪いですね、ソトは!」
「お前も迷子なんだよ!」
〔道に迷ったかも? サイコロで1、2が出たら1マス進む。3〜6が出たら5マス戻る〕
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「うーん、わたしには分かります、アセラはもうすぐです。感じます」
 ハナイが自信満々にそう言う。こういう場合、たいてい彼女の勘は外れている。
「洞窟はまだ奥がありそうだよね? アセラは一番奥にある気がするから、まだ遠いんじゃないかな?」
 とサナが言う。こういう場合、たいてい彼女の勘は当たっている。
 つまりはハナイの希望的観測はたいてい絶望的であり、サナの嫌な予感はいやによく当たるのである。
――――――――――――――――――――
「わたしは、最強の魔法少女になります」
 そんなことをハナイが言い出した。大体いつものことだから放っておこう。と思ったのはサナだけだったらしい。
「ムリだろお前じゃ。だってアタシに負けたじゃん」とソトがツッコむ。
「だからそれは忘れました!」
「絶対お前じゃ最強になんかなれない!」
「いいえなります!」
 サナは二人の間であわわ、と口を開いているだけで何もできない。
「ソト、わたしと勝負です」
「ふん、お前に負けるわけないだろ」
〔ハナイとソトがけんかを始め、ムダに時間を使った。3マス戻る〕
――――――――――――――――――――
「あぅぁ、魔物が、いるかも……?」とサナが小さな声で言った。
 その直後、暗闇の中から何かの音が聞こえた。
「何かいるみたいです」
 三人が身構えると、目の前に大きな影がザザッと足音を立てて現れた。
「ドーマだ! 何で魔物がいるんだよ」
「ソト、早く変身してやっつけてください」
「ちっ、仕方ないな……」
 ソトのペンダントが光り、彼女の体が光に包まれる。そしてそこに現れたのは。
「出ましたね、ネコミミ魔法少女ソト!」
 説明するまでもないが説明しよう! いたって普通の少女ソトは魔法少女に変身することで、キュートなネコミミとしっぽを持った萌えキャラに早変わりするのだ! 素早い動きと鋭い爪を使った攻撃ができるのかもしれないが、あまり魔法少女らしくない。しかもソトは猫アレルギー気味なので変身すると体がかゆくなってしまうという欠点もある。
「大丈夫かな……?」
 心配そうに見るサナの横で、ハナイはちょっと笑いをこらえている。
〔サイコロで1〜4が出たら負け、2マス戻る。5、6が出たら勝ち、そのまま〕
 
 なんとかソトはドーマを追い払うことに成功した。
「すごいですソト、ぷぷ、可愛かったです」
「これだから、魔法少女なんて嫌なんだよ! ああ、かゆい!」
――――――――――――――――――――
「およよよ?」
 いきなりサナが何かに反応した。
「変な声出すなって」
「しっ、何か聞こえます」
 ハナイは耳を澄ます。何か、ピチャピチャという音が聞こえる。
「お、オバケかも?」
 サナは不安そうな声を出すが、構わずにハナイとソトは音の方へ進んでいく。
 三人の目の前に姿を現したのは、ちょろちょろと流れる水だった。水の流れは壁の小さな穴から先へ続いている。
「湧き水があったんですね。ちょうど良いので休憩しましょう」
 ハナイは水をすくって顔を洗い、手を洗う。それから手ですくった水を飲む。
「ぷはぁ、生き返りますなあ!」
「オッサンかよお前は……」そう言ってソトは呆れ顔をする。
〔湧き水でリフレッシュした! 3マス進む〕
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「良好な経過ですね、今までのところ。でもソト、順調すぎて退屈なのです」
「素敵なことじゃないか。順調すぎて何が悪い。アタシはこのまま何もなく洞窟から出たい。それだけだ」
「ダメです、それでは。何か仕事を果たさないと、魔法少女が皆から認められることにもなりませんし」
「しりとりでもする、じゃあ?」
「あ、良いですねサナ、やりましょう。退屈なので」
「で、しりとりでどうして魔法少女が認められることになるんだよ」
「よいではないか、よいではないか! 細かいことは気にしません」
「んん? ハナイ、今「ん」で終わったよ? しりとり終わりじゃない?」
「いつまで続けんだよこれ……」
――――――――――――――――――――
「よし、お菓子です」
 ハナイはカバンをあさる。
「あのな、お前はお菓子以外のことを考えてないのか」
 ソトの文句に、ハナイは頬を膨らませる。
「失礼な。わたしは少しでも荷物を減らして動きやすくしようと努力しているのです」
「ああもう、お前という存在がお荷物だよ」
 そんなソトの嘆きなどお構いなしに、ハナイは煎餅を取り出す。そしてバリンと噛み砕く、はずだったのだが。
「む? このお煎餅は湿気ってるじゃないですか! 誰ですかこんな物を備蓄してたのは!」
〔煎餅がおいしくなかったので気分を害した。1マス戻る〕
――――――――――――――――――――
「ピー、ガピー、え〜こちらハナイ。サナ、異常ないですか、どうぞ」
「ピー? ヒョロロ? こちらサナ。現在洞窟を探検中。異常なし? どうぞ」
「ピーギュルル、お腹減りました。こちらハナイ。無事で何よりです。万が一死んだ場合はわたしまで連絡してください、どうぞ」
「え? えぇ? 死んだ場合?」
「ピー、こちらハナイ。ソト、異常はありますか? どうぞ」
「うるせぇなさっきから。なに無線ごっこしてんだよ。異常なのはお前らの頭だっつーの。どうぞ」
「……どうぞ? 今どうぞって言いましたねソト!」
「あっ」
 そんな感じで三人は順調に進む。
――――――――――――――――――――
 ふわり、と前方から風を感じた。
「お、風があるぞ。出口が近いんじゃないか」とソトのテンションが上がる。
「出口ではなくアセラを探さないと意味がありませんよ」とハナイは口をとがらせる。
「あ、うーん? 嫌な予感? ガチでヤバいでやんす兄貴、的な?」
 サナはそう言っていきなり来た道へ戻っていく。
「おいおい、もうすぐ出口かもしれないのに!」
 ハナイとソトは慌ててサナを追いかける。さすがに置いていくわけにいかないのだ。
〔1マス戻る〕
――――――――――――――――――――
 三人は洞窟の壁に、何か光る物を見つけた。白っぽく光るそれをよく見てみると。
「これってもしかして、エスケトの原石じゃねぇの!」
「ほんと?」
「ソト、お土産に持って帰るのです。早く掘ってください」
「お前らも手伝えよ」
「私とサナは、掘る道具を持っていませんです」
「役に立たねぇな……」
「この原石を磨いて、光沢を出すんだよね?」
「それが宝石として売られるわけです。すごいです、きゃっきゃうふふ」
「それを言葉にして言うやつ初めて見たよ……」
〔宝物を手に入れた? ってことで3マス進む〕
――――――――――――――――――――
 何かの気配がした。
「に、逃げる……」サナの足が震え出す。
 三人の前に、喜の象徴が闇を身にまとってやってきた。
「ピエロマスクです!」
 ハナイは叫んだ瞬間、腕を引っ張られる。ソトがハナイとサナの手をつかんで走り出したのだ。
「ソト、痛いです」
「ンなこと言ってる場合か!」
 ピエロマスクは三人を追ってくる。すごい俊足だ。
〔サイコロで奇数が出たら1マス進む。偶数が出たら3マス戻る〕
――――――――――――――――――――
 ハナイ、ソト、サナの前に、ピエロマスクが立ちはだかった。
「ケケケケ……」ピエロの裂けた赤い口からそんな声が聞こえる。
「毛? 毛がどうしたんでしょう?」ハナイがつぶやく。
「ボケてる場合かこんな時に!」ツッコミ担当ソト。
「毛毛毛毛……」ピエロのボケ。
「お前も悪ノリしてんじゃねぇよ! 言っとくがそれ音声だけじゃ伝わらないからな!」
 結局は、ピエロマスクと戦うことに。
〔サイコロで1、2が出たらスタート地点まで首が吹っ飛ぶ、取りに行くのでスタートまで戻る。3〜6が出たら首が落ちるだけなのでセーフ、このマスにとどまる〕
――――――――――――――――――――
「わたし、思ったのですけど」とハナイが真面目な顔で言う。
「どうしたの?」といちいち聞いてくれるのはサナだ。ソトはどうせくだらない話に決まっていると思っているのか、無視している。
「わたしたちはここまで、洞窟の探検をしてきたわけです。それは良いのですが、なぜすごろくみたいにして進んだり戻ったりしなければならないのですか。サナとソトは馬鹿らしく思わないんですか。わたしたち、今まで三歩進んで二歩下がるみたいなことしてたんですよ!」
「おい、それ言って良いのか? 何と言うか小説的に、そういうメタな発言は……」
 ソトがハナイを注意するが、彼女はそんなものに聞く耳を持たない。
「誰がメタボですか。この小説って確か複数人でリレーして書いていくという作品でしたね。私はこんな面倒なストーリー展開をさせた今回の執筆者に文句を言いたいです。早く話を進めなさい、何を遊んでいるんですか。次の順番の方に申し訳ないと思わないんですか」
〔このガキをスタートまで戻してやってもいいが、大人げないことはやめてそのままにしてあげる。執筆者の寛大な処置!〕
――――――――――――――――――――
「はぁ、魔法少女なんて早くやめたい……」とソトがぼやく。
「今、魔法少女を侮辱しましたね」と怒るのはハナイ。
「ああ、今アタシは魔法少女を侮辱しました、それが何?」
「もう許せません、ソト、わたしと勝負です!」
「良いぜ相手になってやる」
 サナはそんな先輩二人を見ているのか見ていないのか、ぼんやりしている。
〔けんか発生。ムダに時間を使った。1マス戻る〕
――――――――――――――――――――
「はぁ、アセラの故障とかマジめんどくせえ。何でこんなところにあるんだよ、もっと管理しやすいように作れよ馬鹿」とソトがぼやく。
「今、わたしのおばあちゃんを侮辱しましたね。つまりは魔法少女を侮辱しましたね」と怒るのはハナイ。
「お前のばあちゃんのことは侮辱しないけど、ハナイのことは侮辱する」
「もう許せません、ソト、わたしと勝負です!
「やってやろうじゃんか」
 サナはそんな先輩二人を見ていないのか、それとも見て見ぬふりをしているのか、ぼんやりしている。
〔けんか発生。ムダに時間を使った。2マス戻る〕
――――――――――――――――――――
「あ、あ、お菓子の時間?」
「そうですそうです、お菓子の時間です」
「だからさ……」ソトはもう嫌だ、というふうにため息をつく。
「何をそんなに気にしているんです、ソトは。大丈夫です、まだソトはおデブさんじゃありませんよ?」
「まだ、って、いつかはそうなるみたいに言うな!」
「今回は栗羊羹です。うへへ」
「また妙な物を持ってきて……」
 そのときサナが何かを思いついたような表情で顔を上げた。
「あ! そう言えば、羊羹は――」
 何かの危険を察知したソトが割り込む。
「いや、サナ、それ以上言うな」
「どうして? 羊羹はよぅ噛――」
「うわぁおいしそうだなあ! アタシも一口もらおうかな! ……ん、ぐ、ぐぅ」
 羊羹を勢いよく頬張ったソトが苦しげな顔をしだした。慌てて水を飲む。
「あぁ、だから羊羹はよぅ噛んで――」
「あああ!! 言うなぁ!」
〔楽しくお菓子を食べて元気になった。2マス進む〕
――――――――――――――――――――
「はぁ」とソトがため息。
「今、魔法少女を侮辱しましたね」とハナイが怒る。
「いや、まだ何も言ってないだろ」
「何か言う予定があったんでしょう。予定帳を見せてみなさい」
「いちいち書かねぇよそんなこと!」
「もう許せません、ソト、わたしと勝負です!」
「何でだよ」
 そこにサナが割り込む。
「けんかをやめて? サナのために争わないで?」
 しぃーーん、と辺りが静まり返る。だがしかし。
「何でお前のために争ってる設定になってるんだよ!」
 とちゃんとツッコミがあった。
〔やっぱりけんか発生。ムダに時間を使った。2マス戻る〕
――――――――――――――――――――
【ゴール】
 三人はやや広くなった場所に出た。
「あ、何かあるかも?」
 と、いち早く何かを感じ取ったサナが言う。
「あれを見てください!」
 そう言ってハナイが指差すのは洞窟の奥の壁面、地面の近くだった。
「えぇ、なんじゃありゃ!」
 そいつは、三人の方を見てピクリと動いたのだった。
――――――――――――――――――――
 
「やっと来たのか、このザコ魔法少女どもが」
 いきなりそんな口をきいたのは……。
「はあ? キノコぉ?」
 そこにいたのは目と口が付いたキノコのような形をした物体。それを指差すソトに対し、キノコがデカい声で言う。
「キノコじゃねえよアホ。オレぁアセラだよ見て分かんねえかボケ」
 どう見てもキノコの物体を指差し、ソトがハナイに訊く。
「おい、あれがアセラなわけないよな。もっとすごい、ありがたい物のはずだろ。と言うか何でキノコがしゃべってるんだよ」
 ソトがハナイの肩を揺らす。しばらくの間キノコを見つめていたハナイだったが、やがて真面目な顔をして言う。
「いえ、あれがアセラです。間違いありません。ウキエ地方最大のアセラです、わたしには分かります」
「オレの名前はカエンってんだ。おっしゃる通りこの辺りで一番の力を持つアセラだ。オレの他にもウキエ地方にはあと十一のアセラがいるが、そいつらの名前はシャグマアミガサ、ニセクロハツ、タマゴテング、タマシロオニ、コレラ、ドクツル、ニガクリ、スギヒラ、ワライ、ツキヨ、ドクササコだ」
 威張ってキノコが言う。いや、キノコではなくカエンが言う。
「ええ、マジでこのキノコがアセラ? かっこ悪っ」
「でも、あなたが宝石を生み出してるんだよね?」
 サナの問いにカエンがうなずく……ような感じの動きをする。動くキノコとか、ちょっときもい。
「しかし、見たところ故障した感じではありませんね。どういうことでしょう?」
 ハナイが首を傾げると、それなんだが、と言ってカエンが事情を説明しだす。のかと思いきや。
「まあお前ら座れよ。ん、何だ、なんか甘い匂いがするな。あ、分かったお前らお菓子持ってるな? よこせ。宇治抹茶金時のかき氷を食わせろ」
「そんなもん洞窟探検に持って来るわけねえだろ」とソト。
「うぅ、これはわたしの大好物ですのに……仕方ありません」
 ハナイはそう言ってカバンからかき氷を取り出す。
「何でそんな本格的な甘味を持ってるんだよ! つか溶けるだろ!」
「それで、カエンは故障じゃなくて何なの?」とサナが尋ねた。
 かき氷を食べながらカエンはごにょごにょ答える。
「ごにょごにょ……」
「はっきり言えよ!」
「カエンじゃなくて、カエン様と呼べ」
「どうでもいいよそれ!」
 カエンとソトがコントを始めたとき、いきなりハナイたちの背後から誰かの足音が聞こえてきた。慌てて三人は身構える。
 
「君たち、こんなとこで何をしてるの?」
 その声は、まだ幼い少年のものだった。ランプの明かりが照らし出したその顔は、ハナイと同年代くらい、およそ十歳くらいだろうか。背はあまり高くなく、大きなバッグを肩に掛けている。
「おう、カズキ。おかえり〜」とカエンは呑気な声で少年に語りかける。
「知り合いなの?」サナがつぶやくと、カエンが言う。
「カズキはなあ、アセラを盗みに来た盗賊団のいっちばん下っ端なんだってよ。いや、でもオレが故障してるんで、まあいろいろ介抱してくれてたわけだ。うん、心優しい男だよこいつは。ほらカズキ、このクズ魔法少女たちにあいさつしてやれ」
 カエンにそう促され、カズキと呼ばれた少年はぎこちない動作でハナイたちに頭を下げた。
「ど、どうも……えっと、僕は……」
「わはは、こいつ、いつも男ばっかりの盗賊団の中にいるから、女の子と近くで話すのに照れているのさ」とどうでも良いことをカエンが補足説明する。
「それで、キノコはどこが故障してるんだよ?」
 イライラしだしたソトが乱暴に尋ねる。カズキの話は聞こうと思っていないらしい。
「オレか? いや、さっき故障と言ったんだが、実は故障じゃないんだなこれが。まあ何だ、その、つまり自主休業みたいなもんだ」
「サボり?」とサナが小さく尋ねる。カエンはうなずく。キノコきもい。
「サボりと言ってもただのサボりじゃない。魔法少女を呼び寄せるためにわざと故障を装っていたのさ、オレって頭良い〜!」
 カエンはそう言ってゆらゆら揺れる。キノコきっもい。
「呼び寄せるですって? カエンはわたしたちに何をさせたいのです!」
 ハナイの問いにカエンはグフフと笑みを漏らす。
「どうせへなちょこ魔法少女諸君は気付いていないのだろうが、いま、この世界に眠る八体の魔神が目覚めたのだ。魔神は人々を地獄に叩き落とすだろう。それを止めるために、我々に協力してもらう」
「魔神なんてアタシは聞いたこともないぞ」
 ソトがそう言うと、カエンは呆れたようにため息をついた。
「いいから黙って協力しろや、このブス」
「どうして魔法少女? 大人に協力させた方が、良いと、思うけどなあ?」
 サナが誰にというわけでもなく疑問をつぶやく。するとカエンがそれはだな、ともったいぶった口調で話す。
「弱っちぃ魔法少女が最強の魔神をバッタバッタ倒していったら面白いだろ、展開的に」
 その言葉に過剰に反応した者が一人。
「分かりました、協力しましょう! さっそく行きましょう。その魔神とやらをわたしたちの手でぶっ倒すのです。魔法少女の強さを証明するのです」
 言わずもがな、ハナイだった。
「なんでアタシがこんなわけの分からんキノコに協力なんざしなきゃなんないんだよ」
 どこかへ歩いていこうとするハナイの肩をつかんで、文句を言うのはソト。
「わけの分からんキノコではない。超偉いんだぞオレは」
 胸を張るカエン。当然ソトはそれにつっかかる。
「どこが偉いんだよ。ただのキノコじゃないって見せてみろよ。そうしたら協力してやるよ」
 すると、カエンは笑った。
「仕方ねぇな、ちょっとだけだぞ」
 次の瞬間、ソトが持っていたランプの火が消えた。
「え?」
「オレの魔法で火を消したんだ。もちろんもう一度点けることもできる」
 カエンがそう言うと、ランプに火が灯ってまた明るくなる。
「これくらいで驚くなよ? こんなこともできる」
 ソトの頭上で何かが崩れる音がした。ソトが上を見上げると、大きな岩の塊が天井から落ちてくるところだった。
「うわっ!!」
 ソトは咄嗟に腕で頭をかばいつつ、その場に倒れ込む。しかし、岩はいつまでたっても落ちてこない。見てみると、岩の塊は宙に浮いた状態で静止している。
「オレの魔法で岩を浮かせているんだ。自由自在に動かすこともできる」
 カエンはそう言い、目を動かす。その動きの通りに宙に浮いた岩が動き回り、最後に地面に降りて動かなくなった。
「どうだ、これで信用したか」
 ソトは声も出ない。
「す、すごいキノコです……!」
 ハナイの一言にカエンはキッと目を細め、睨みつける。
「コラそこ! キノコじゃなくてアセラだっつーの」
 そんなこんなで、とりあえず三人の魔法少女たちは、アセラの力を思い知ったのだった。
 
「にしても、故障じゃなくてキノコとはね……」
「アセラの故障かな、と思ったら、アセラのお導きだったのです。これはわたしたち魔法少女にとっての一大チャンスですよ」
 ハナイはそう勇み立つ。
「そういえば、カズキはどうしてカエンを介抱してたのかな? 故障じゃなかったのに?」
 そんなサナの疑問に、カズキはどこか脇の方を見ながら答える。
「だから、僕はアセラを盗もうとしてて。でもアセラは魔法の力を持っていてビクともしなくて、動かせないもんだから、いろいろな方法を試していたんだ。それをカエンが勝手に介抱なんて言っただけで……」
 カエンはぐふふと笑う。
「ああそうだ、ついでだからカズキ、お前もこのポンコツ魔法少女どもと一緒にオレに協力しろ。まあカズキは役立たずな魔法少女よりは頼りになる。お前はつまり、そう、お助けキャラだ」
 カエンはそう勝手に決めている。カズキは何も言わずにじっとカエンを見ている。
「なんで盗賊と一緒にいなきゃなんないんだよ」とソトが文句を言うがカエンは表情を変えない。聞こえないふりをしているのだ。ソトが舌打ちをする。
「ところで、協力とはどう協力すればいいのですか?」
 ハナイが質問すると、カエンはそちらを向いてうんうんとうなずく。
「もっともな問いだな。いいか、貴様らにはこれからオレの仲間たち、つまり別のアセラだな。そいつらを呼び集めてほしい。十二のアセラが集まれば、魔神を倒すだけの力になる。オレの命令と聞けばアセラたちはすぐここにやってくるだろう」
「ええ、あと十一もあるアセラを全部集めるのかよ。めんどくせぇ!」
 ソトは早くもやる気を失っている。
「他のアセラも、カエンみたいな見た目をしてるの?」
 サナが訊くとカエンはまたうなずく。
「ああ、オレのように立派ではないが、大体似た外見だな」
 つまりは、きもいキノコを探せということだ。
「さあ、分かったかガキども。分かったのならさっさと行け! ただでさえノロマなんだから、ホレ行けよっ」
 急き立てられ、何が何だかよく分からないままに、ぞろぞろとその場を出ていくハナイ、ソト、サナ、カズキ。
「行ってきます、すぐにアセラを見つけてくるのです!」
 元気なのはハナイだけだった。
 
 
 
 村はずれの丘の上。師匠であったハナイの祖母の墓に、取ってきた花を供えたスズキは、墓石の土台に何か細かい文字が刻まれていることに気が付いた。
「おや、これは師匠が後世のために残した遺言! つまりダイイングメッセージではないか。ん、それを言うならダイニングメッセージ? いや、ダイビング? まあ何でも良いか。ふむ、なになに。『ここに記すのは、人々に災厄をもたらす魔法の呪文です。だから決して軽々しく口にしてはなりません。絶対口にしてはいけません。うっかり言ってしまうと大変おもしろいことになります。その呪文とは、イザンバヨジウヨシウホマ、です』だって。あれ、今、軽々しく口にしてしまったような気がするが、これは大丈夫だろうか?」
 とその時、ぐおおおおお、というものすごい唸り声と、人々の叫び声のようなものが村の方から聞こえてきた。
「ほぅ、お師匠様の三回忌だというのに、村はずいぶんと賑やかなものだな」
 スズキは村で起きている騒ぎを気にもとめない。そして、自分が軽々しく口にしてしまった呪文が、災厄をもたらし始めたということにももちろん気付いていない。
 その代わりと言っては何ですが、一つ気付いたことがありますのでゲス。
「さて、お師匠様の墓参りも済んだが、確か今日は魔法少女の集まる日ではなかったか。いやそんな気がする。重大な約束を失念していたようだ。これはいけない。お師匠様に叱られてしまう。急いで向かわなければ」
 確か、山の洞窟にアセラの修理か何かに行くのだった。では洞窟に向かおうではないか。
 スズキはほぼ手ぶらの状態で、口笛を吹きながら洞窟へと歩き出した。
 
 
 
 さてそのころ村では、そりゃもう大変なことになっていた。村で起こったことを箇条書きにして示すとすれば、次のようになる。
・「ぐおおおおお!」
・「うわああああ!」
・「逃げろ!」
 と、これだけでは分からないので説明をする。
 まず、ユメが操っていた魔神のレヴィオストームちゃんが暴走なさりました。あらビックリとはこのことです。実はこれ、スズキが口にした呪文が原因だったりするのですがそれに気付いている者はおらず。
 魔神は暴れ回って村を破壊する。人々は逃げ惑う。腕の立つ村の戦士たちでも、この強大すぎる敵にはどうにも歯が立たなかった。
 ユメは、言うことを聞かなくなった魔神に恐れをなして、さっさと逃げ出した。このままではまずい。まずは魔神を止めなければ。そうだ、魔法少女の力でどうにかしよう。あ、じゃあ残りの四人の魔法少女と合流するか〜。洞窟にアセラを探しに行ったんだったな。じゃあそこに行ってみよう、てなわけでユメもハナイたちのところに向かったのだった。
 
 
 
 次回! ハナイのばあちゃんの初恋エピソードがついに明らかに! そしてピエロマスクの特殊メイクの実態に迫る! さらに、最大のアセラであるカエンの意外な日常に密着! の三本でお送りします。次回も読んでくださいね、じゃん、けん、ぽん! ぐふふふふふふ!(この次回予告は妄想です)
 
 
(担当:御伽アリス)