2011-01-01から1年間の記事一覧

キャピタル・C・インカゲイン その5

――覚書 ・特記事項 名城線左回りで時間を遡行できるというのは事実で、適切な速度と遡行質量を合わせてやれば目的の時間に放り出されることがここまで一連の実験から明らかになった。 *詳しくは彼女の実験ノートを参照すること これを私の能力と応用させる…

キャピタル・C・インカゲイン その4

土曜日の朝、テレビのスピーカーが言った。「選ばれた者たちよ、約束の地はトウキョウである。始まりの時は近い。いざ、トウキョウへ!」 樹は立ち上がった。向かう先は、姉の部屋だ。選ばれた者たち、とはあの手紙によって力を得た者たちであることは考える…

何も無かったらかかないでね! その6

『林達弘が辞退した』 そのニュースは学校を激震させるほどの威力はなかったけれど、そのことによって生じた事態は十分に生徒たちに衝撃を与えた。特に、常に一組が絶対、という状況に慣れた上級生にとっては、非・一組の生徒の生徒会入りは大事件だった。 …

キャピタルCインカゲイン その3

姉がいなくなった日から、樹は叔父夫婦と一言も会話を交わしていなかった。彼をこの家族へ繋ぎ止めていた唯一の楔が外れてしまっただけでなく、この夫婦にとっても、所謂希望の光という奴が消え失せてしまっていた。

何も無かったらかかないでね! その5

ガラリと乱暴な音を立て、後方の扉が突然開け放たれた。教室内にいた生徒たちは何事かと一斉に顔を上げる。 「あの、開票作業中に一般の生徒は——」 一番ドアの近くにいた女生徒が腰を浮かせたが、その口から「入室禁止」の単語が紡がれる前に固まってしまっ…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その12(3)

窓から朝の白い光が差し込み、部屋の中を明るく浮かび上がらせている。もう風の唸りも木々が騒ぐ音も聞こえず、その代わりどこか遠くの方から、チチチ、という小鳥の軽やかなさえずりが耳に届いてくる。嵐は完全に過ぎ去ったのだ。 私は椅子に腰掛けたまま、…

キャピタルCインカゲイン その2

樹は声によって現実へと引き戻された。別に戻る必要もない乾ききった現実だ。それなのに何故、戻ってきてしまったのか。それは、樹に届いた声が、現実の忘却をも喪失させるほどに、不愉快極まりない音色だったからだ。その声は泣き声と呼べるほどに可愛らし…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その12(2)

しばらくの間、皆呆気に取られたような目で、東条と神埼の二人を交互に見つめていた。当然と言えば当然の反応だろう。人格を複数持っている人物なんて、その存在は知っていても、実際に接することなどまずない。三重人格者ともなれば、余計にだ。 私もまた信…

何も無かったらかかないでね! その4

四月の最終水曜日。ようやく僕は藤村さんの姿を見ることができた。舞台の上の彼女を見上げるという構図は入学式のときと似ている。彼女の視線は演台に立つ二年生へ向いていて、当たり前だけど僕のことなんて見ていない。 立会演説会があることは、先週修一か…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その12(1)

東条の言葉に、私は茫然と目を見開いた。たった今聞いた彼の声が、頭の中で奇妙にねじれて反響している。今、彼は何て。 この家を逃げ出した浪岡家長男……浪岡東条……? 青波明日香さんと同じように……私と同じように……。 彼が私の身の上や素性を知っているかも…

何も無かったらかかないでね! その3

気づいてみれば、すべては夢でした。 ……という展開を期待して目を閉じてはみたものの、何も変わらなかった。といっても生来の真面目な性格が祟ってか僕に入学式中の居眠りなんてできるはずもなかったし、そもそも目を瞑る暇もなく校長の説教話は終わった。な…

何も無かったらかかないでね! その2

教室に向かう生徒に埋まった廊下を僕は修一と歩く。修一はしきりに何かを話しかけようとしているが僕の頭の中には彼女の名前がこびりついて離れない。藤村雪帆なんてそれほど珍しい名前ではないし、中学と違って学力でおおよそ集められた高校で同姓同名なん…

キャピタルCインカゲイン その1

稲玉士がテレビをつけると、昼のワイドショーをやっていた。話題は、先日千葉で起きた謎の怪死事件である。いつも事件のあった近くをたむろしていた若者グループ5人が焼死体で発見されたという。警察では、事件と事故の両方の面から調べると発表されたが、…

何も無かったらかかないでね! その1

「ありがとう」 その言葉を聞いたのは今から三年と少し前、僕がまだ小学六年だった年の初冬。その日は珍しく雪が積もっていて、友達が皆はしゃいでいた事をよく覚えている。彼女は窓から外を眺めながら、しかし他の子供達よりも明らかに大人びた様子で、僕に…

泡vol.10/vol.11 読者アンケートにご協力お願いします!

泡vol.10/vol.11より、文芸サークルではネットによる読者アンケートを実施します。 読者の方の声を参考にして、各々の作品の品質を向上させていきたいと考えています。 ちょっとしたご意見、ご感想でも非常にありがたいので、泡vol.10/vol.11をお買い上げい…

名大祭で部誌『泡』を販売します。

今年も名大祭にて部誌『泡』vol.10/vol.11を販売します! たくさん小説が集まったので、分冊することになりました。 名大祭にお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。 日時 6/4土 10:00〜18:00 6/5日 10:00〜16:00 場所 全学教育棟本館3階 C36教室 (中央の…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その11(3)

これが自分のパートの最後です。 - 「私は真相に辿り着いてません。というより犯人の見当すらつきません。だから私を殺しても意味はありません」 我ながら滅茶苦茶な論法だ。案の定、ダイニングに集まった青波関係者らは白けた目を私に向けている。私に対す…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その11(2)

誰も教えてはくれなかったが、警察の見解では姉は事故死ということになった。バルコニーの柵が老朽化しており、弓子がそこへ体重をかけた途端運悪く柵が折れ、彼女は中庭へ転落したのだそうだ。さして入念な捜査も行われずに彼女の死は過去へと流された。 神…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その11(1)

【登場人物】 青波武生 青波家の当主 青波頼子 武生の妻。転落死 青波幸生 武生の息子 輿山 武生の主治医 神埼弘 推理作家。二重人格で、「神埼」が主人格、「神崎」が第二人格 神埼朱実 神埼の妻。三階のトイレで首を吊られ窒息死 空条明日香 探偵助手 眼鏡…

サークル説明会の日程です。

以下の日程でサークル説明会を行います。是非お越しください。 4/14木 18:15〜 S11教室 4/15金 18:15〜 S10教室 4/18月 18:15〜 S21教室 4/19火 16:30〜 C34教室 4/20水 15:00〜 C14教室 (教室はすべて全学教育棟本館です) 4/12追記:リレー小説『blue-ryu…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その10

「……朱実、どうしてここに?」 神崎は困惑しつつも、妻の元へ駆け寄る。疲れ切っているようで、神崎に支えられて立つのがやっとの状態であった。 「…………」 俯いたまま、なかなか話そうとしない。神崎が掴んでいる服は濡れており、身体は生きた心地がしないほ…