blue-ryu-comic blue-spring-jojo

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その12(3)

窓から朝の白い光が差し込み、部屋の中を明るく浮かび上がらせている。もう風の唸りも木々が騒ぐ音も聞こえず、その代わりどこか遠くの方から、チチチ、という小鳥の軽やかなさえずりが耳に届いてくる。嵐は完全に過ぎ去ったのだ。 私は椅子に腰掛けたまま、…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その12(2)

しばらくの間、皆呆気に取られたような目で、東条と神埼の二人を交互に見つめていた。当然と言えば当然の反応だろう。人格を複数持っている人物なんて、その存在は知っていても、実際に接することなどまずない。三重人格者ともなれば、余計にだ。 私もまた信…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その12(1)

東条の言葉に、私は茫然と目を見開いた。たった今聞いた彼の声が、頭の中で奇妙にねじれて反響している。今、彼は何て。 この家を逃げ出した浪岡家長男……浪岡東条……? 青波明日香さんと同じように……私と同じように……。 彼が私の身の上や素性を知っているかも…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その11(3)

これが自分のパートの最後です。 - 「私は真相に辿り着いてません。というより犯人の見当すらつきません。だから私を殺しても意味はありません」 我ながら滅茶苦茶な論法だ。案の定、ダイニングに集まった青波関係者らは白けた目を私に向けている。私に対す…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その11(2)

誰も教えてはくれなかったが、警察の見解では姉は事故死ということになった。バルコニーの柵が老朽化しており、弓子がそこへ体重をかけた途端運悪く柵が折れ、彼女は中庭へ転落したのだそうだ。さして入念な捜査も行われずに彼女の死は過去へと流された。 神…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その11(1)

【登場人物】 青波武生 青波家の当主 青波頼子 武生の妻。転落死 青波幸生 武生の息子 輿山 武生の主治医 神埼弘 推理作家。二重人格で、「神埼」が主人格、「神崎」が第二人格 神埼朱実 神埼の妻。三階のトイレで首を吊られ窒息死 空条明日香 探偵助手 眼鏡…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その10

「……朱実、どうしてここに?」 神崎は困惑しつつも、妻の元へ駆け寄る。疲れ切っているようで、神崎に支えられて立つのがやっとの状態であった。 「…………」 俯いたまま、なかなか話そうとしない。神崎が掴んでいる服は濡れており、身体は生きた心地がしないほ…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その9

拭えない違和感。 停電した双草荘での逮捕劇――そして監禁。神埼自身の体験ではない記憶を神崎から引き継ぐのはこれが初めてではないが、何度引き継ごうともいまだに慣れることのない神埼であった。目の前に広がる殺風景、こちらに向けられた八つの瞳、背中と…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その8

伝えたいことがある。 空条は神崎の言葉を胸中で反芻しながら、それでも答えを見つけられずに……そもそも意味など無いのかもしれないが、青波翁を訪ねに薄明かりの廊下を歩いていた。さすがにこの季節のこの時間はまだ廊下の明かりなしでは暗いものの、それで…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その7

* * * 第七章 「告白」 やぁやぁ、優秀なる警察諸兄、あるいは東条君、ごぎげんよう。それとも、そこにいるのはまだ私には知る由もない、はるか後世の人なのかもしれないが。 まぁいい。いずれにせよ、この短文が貴兄の目に触れているということは、私は…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その6

一階廊下の照明も消えていた。 懐中電灯の光が虚しく暗闇を貫く。どうやら双草荘全体が停電しているらしいと神崎はようやく気づいた。眠っている間に偶然、たまたま雷が落ちたのか。それとも人為的なものか。これまでの事件を考えると、疑心暗鬼にならざるを…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その5

他の四人と使用人らが階段を下りていく足音を聞きながら、神埼は静かにドアを閉めた。慣れない手つきで鍵を掛け、辺りを見回す。部屋は暗闇に包まれており、足元さえ定かでない。神埼は崩れ落ちるようにその場に座り込んだ。背中を預けたドアは固く、これが…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その4

双草荘の三階北側に位置するトイレ前の廊下。そこには今小さな人だかりができている。皆使用人の悲鳴に引かれて集まってきた者たちだ。青波武生、青波幸生、空条明日香、輿山氏、この館に留まっていた数人の使用人、そして。 「……朱、実……」 神埼は呆然と妻…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その3

* * * 「ここまで黙っておいて難ではあるが、少しいいかい?」 切れるか切れぬか張り詰めた場を割るは、実直を墨に溶かした身なりの弁護士。その手腕を買われ、若くしてその地位を得た秀才である。 東条助手は深い相貌で弁護士を眺めた後、掌を差し出し話…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その2

神崎は妻を連れ、明日香の後に続きダイニングへと向かう。 吹き付ける風雨が廊下の窓を激しく揺らしていた。神崎は足を止めず、横目で窓外の景色を眺める。 神崎が双草荘へ招かれたのは初めてではない。青波翁が開く個人的な食事会には、数年前から度々妻と…

blue-ryu-comic blue-spring-jojo その1

* * * 殺人事件! 嵐近付く闇夜の洋館、轟く悲鳴はただならぬ気配。慌てて駆け付けた一同が見たのは、腰を抜かした家政婦と仰向けに倒れた名探偵。じっと天井を見つめる虚ろな双眸は、とんと生気が見えぬ。まばたきもせず、身じろぎもせず。 殺人事件! …