blue-ryu-comic blue-spring-jojo その3

 * * *
「ここまで黙っておいて難ではあるが、少しいいかい?」
 切れるか切れぬか張り詰めた場を割るは、実直を墨に溶かした身なりの弁護士。その手腕を買われ、若くしてその地位を得た秀才である。
 東条助手は深い相貌で弁護士を眺めた後、掌を差し出し話を譲る。
「ありがとう。 君の意気込みは分かったけれど、少々気負ってしまってはいないだろうか。 というのも、『なぜ犯人を6人に限定しなくてはいけないのか』という問題をクリアできていないじゃないか」
 そう、この館には家政婦女給、庭師に執事と数多の従者が働いている。その中からわずか6人に犯人を絞るとは何事だ。
 鋭い指摘にも動じず、東条助手はあろうことか微笑を返して机を弾く。
「仰るとおりです。 なぜ犯人を6人に限定しなくてはいけないのか・・・・・・そこからお話しなくてはいけませんでしたね。 お恥ずかしい」
 言葉を区切ると東条助手は周りを睥睨した。質量を持った微笑みが容疑者達を磔にする。

――殺人だ!――
裂かれる沈黙。言葉の意味に沸き立つ面々。逸早く冷静を取り戻した東条助手を先頭に一行は声の方へと急ぐ。
 哀れ首切り裂かれたるは齢十八の小柄な女給。無念の面に朱の薔薇が咲く。まだ悪鬼の手に落ちて間もない亡骸が廊下の片隅に横たわる。東条助手の腕の中で女給はその惨い傷を晒す。
「下手人は我々の他にいるのではないかね?」
 冷たい目線で見下ろす翁。空いた間隙が重苦しくその場に圧し掛かる。
「少なくともこの中の全員にアリバイが出来てしまいました。 私達は無罪なのではないでしょうか?」
 物静かな漫画家が挟む。もはや誰の目にも信頼は浮かんでいない。暗い視線を一矢に受けてなお、東条助手は静寂を纏って立ち上がる。
「いいえ、犯人は確かにこの中にいます」
 * * *
 さっきからランプのちらつきがどうにも気になる。いや、そもそも揺らいでいるのは自分の方か。
 神埼はわずかに残っていた消しかすを神経質に摘み上げ、ゴミ箱に放り込む。
 空条の「犯人は偶然と疑心暗鬼2人の共犯です」などと言うふざけつつも楽天気な言に一同も不安や不満を納め、各自室へ帰っていった。
 時計は既に締め切り日であることを伝えている。
 やはり楽観した俺が馬鹿だったのか・・・・・・。
 それにストーリーテラーなどと気取っているのも殺人事件を殊更猟奇沙汰にしたがる陳腐な新聞の記者のようで、そう思うと気持ちも萎えてくる。
 悲観しだすと次々にいらない妄想が溢れてくる。
 神埼は原稿用紙を抽斗にしまい、ランプを消して立ち上がる。


 ―――っ!
 ランプの残光が残る暗闇を切り裂いて声にならない悲鳴が響いてきた。
「どうした!?」
 手探りでドアを開け、神崎は廊下に叫ぶ。悲鳴に引かれて各ドアが開けられる音が響いてきた。
 どこからかトイレだっという叫びが聞こえる。神崎は叫びに引かれるがまま駆け出した。


「どういうことだ・・・・・・」
 神崎はかろうじてそれだけを絞り出し、見上げる。
 妻の亡骸が焦点を失った瞳で見下ろしていた。


(担当・うつろいし)
そぉい〜。悩んだ末あまり深く考えないと言う結論に落ち着きました。
次の担当は白霧さんですね。よろしくお願いします。