blue-ryu-comic blue-spring-jojo その7

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   第七章 「告白」

 やぁやぁ、優秀なる警察諸兄、あるいは東条君、ごぎげんよう。それとも、そこにいるのはまだ私には知る由もない、はるか後世の人なのかもしれないが。
 まぁいい。いずれにせよ、この短文が貴兄の目に触れているということは、私はもうとっくに鬼籍に入っていることだろう。
 私はもはや自らの命を惜しもうとは思わない。命でもってさえ到底償いきれない罪を犯してきたのだから。何かを惜しむとするならば、それは名誉だ。死してなお残る魂の価値だ。狂人のレッテルを張られて貶められる最期だけは、たとえこの身がみじめな落伍者に過ぎないとしても、寛恕することはできない。真に死すべきはだれか、真に糾弾されるべきは誰かを白日の下にさらさぬ限り、私が地下で安息を得る日は来ないだろう。よって私はこの短文に一切の真意を記すことで、警察諸兄、東条君、あるいはほかのまだ見ぬ名探偵にこの怪事件の顛末を託すことにしたのだ。

 まずもって、浪岡弓子女史を死に至らしめたのは私である。浪岡邸の三階バルコニーの木柵にあらかじめ細工をし、わずかに体重をかけるだけでも容易に転落しうるように仕掛けたのは私に間違いない。その点に関しては申し開く余地のない事実であり、私はどのような批判にも反駁する口を持たない。
 しかしながら、弓子女史への個人的な殺意でもって私がこのような行為に及んだという憶測は、ここで断じて否定しなければならない。事情を知る者にはすぐに得心の行くことではあるが、私の狙いはむしろ浪岡粉太郎氏にあったのだ。日光浴を好む粉太郎氏にとって、バルコニーはもっぱら彼の利用空間であることを私は重々承知していた。だからこそ、そこにある意味での「罠」を仕掛けたのである。ではなぜ、その日に限って弓子女史がバルコニーに現れ、あまつさえ木柵に身を乗り出したのか。今となってはいかなる理由づけも推測の域を出ない。悲報を耳にした時、私は心底驚愕した。やりきれなさと弓子女史に対して申し訳なく思う気持ちが瞬く間に全身を駆け巡り、しばらく息をすることすら忘れたほどである。

 私が粉太郎氏の殺害を決意するに至った経緯を今更ここでつらつらと述べつくすつもりは毛頭ない。ご本人が一番よくご存じのはずだ。私が声を大にして言いたいのは、弓子女史は死ぬべきではなかったということ、そして粉太郎氏を殺す私の計画に対して明らかに何者かの妨害があったということだ。
 そうでなければ、弓子が死ぬはずがないのだ。弓子が三階から転落するということ、このこと自体が真犯人の存在を半分以上示しているではないか。弓子が太陽の下に出るはずがない。あの弓子が。まだたった15歳の哀れな少女!!
 弓子は殺されたのだ。私を利用した何者かによって。この卑劣なる犯行を私は決して許しはしないであろう。全身全霊をもって真相を究明する心積もりである。

 これまでの数多の事件と同様の冷静さを保ち、必ずや下手人を検挙する決意を込めて。

  昭和五十二年九月記す
  罪深き探偵 古尾谷王次郎

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 神崎は筆を止めた。手書きで原稿を書くなどいつ以来だろうか。
 神崎の予想が正しければ、この一見支離滅裂な断章が事件を解くための鍵となるはずだ。これを目にした犯人が必ず口にするであろう、ある重要な一言。それを引き出すチャンスが容易に手に入るとは思えないが、彼自身が容疑者として(少なくとも見かけ上は)もっとも弱い立場にあることを利用すれば、不可能ではないはずだ。
 部屋の片隅にある柱時計が深夜四時の鐘を鳴らした。夜明けまでもういくばくの余裕もない。神崎は立ち上がった。急がなければ。犯人を突き止めるのだ。
 最後の殺人が引き起こされる前に。


(担当:カンパニール
 伏線っぽいものは入れたつもりですが、どう活用するかは後続の人にすべて一任します。いわゆるひとつの投げっぱなしです。
 あえておかしなところも入れましたのでなんだったら修正してください。
 あとは頼んだ!