キャピタル・C・インカゲイン

キャピタル・C・インカゲイン その13(2) 《最終回》

白い廊下はまた左に折れた。そしてなおも続く。花梨は息苦しさを覚えて、胸を押さえた。 「大丈夫か?」 という士の呼びかけに、やや無理をしたような笑みで答える。 「ちょっと、苦しくなっただけ。うん、平気」 二人はぐるぐると回転を続けるような世界で…

キャピタル・C・インカゲイン その13(1)

――そしてその手紙はきっとあなたを不幸にするでしょう ――そして種は蒔かれ、大きな争いが芽吹くでしょう ――そしてそれぞれの思惑、夢、喜怒哀楽、愛は時の流れによって淘汰されるでしょう ――そして世界は、最後の二つの種を選ぶでしょう ――そしてそれは、世…

キャピタルCインカゲインその12(2)

空は白く、澄み渡っている。肌を刺すような寒さが全身に染み渡る。だがまもなく、そんなことなど感じられないほどに、自分たちは熱く燃え上がるだろう。 「敵情はどうなっている?」 「すでに顕現したホワイトキャッスルより敵部隊が送り込まれています。ど…

キャピタルCインカゲインその12(1)

白み始める空の元、地面が、世界が揺らぐ。崩れ落ちてきたコンクリートの塊が、すぐそばで砕けた。飛んできた破片が体を打つ。もうだめか。そう思った。仕方がない。元から命など捨てる覚悟。ただ、できることならあなただけは無事でいてほしいと、わが身を…

キャピタル・C・インカゲインその11(3)

月と星が凍てついた光を放つ空の下に、名古屋の街が広がっている。自分たちの過去改変の結果、日本一の中心性を持つに至った街が。能力者の戦闘によって早々に電気の道が断たれたため、明かりはまばらで、ビル群の大部分は真夜中の闇の中に黒々と沈んでいた。…

キャピタル・C・インカゲイン その11(2)

順仁の姿が、瞬時に稲玉士のそれに変わる。異常な興奮に満ちたその目が律子を見据えたとき、十六夜はとっさに能力を使い、時を止めた。 律子に向かって風を放とうとしていた順仁が、文字通り凍りつく。完全に動かないのを確認して、十六夜は息をつきながら肩…

キャピタル・C・インカゲイン その11(1)

樹、という名前が、士の頭に一瞬引っかかった。かすかに眉を寄せてその引っかかりをたぐった士は、はっと目を見開いた。士の級友の矢羽樹、能力者であるらしいというその一点のためだけに士が気にかけている彼と、同じ名だったからだ。 だがそんなもの、ただ…

キャピタル・C・インカゲイン その10

足が痛む。B‐Aが、否、楓が足に違和感を感じたのは、彼の意識を制圧してすぐのこと。左足がぎしぎしと軋む。一歩足を進めると、かちゃかちゃと人の足音ではない音がする。最初は特に思うところがなかったが、嫌でも気づいた。 義足か。 義足部と断端部の境目…

キャピタルCインカゲイン その9

「エリック!」 クラリスは体を移すや否やテーブルの最奥で食事を摂っているエリックに食って掛かった。 「バレンタインが暴走した。それどころか…」 「クラリス、君の分も用意させた。報告は夕食の後でいいだろう?」 「……」 彼の余裕を含んだ笑いから、ク…

キャピタルCインカゲイン その8

ようやく見つけた。花梨。あんたのせいで、みんな死んだのよ。タワーが倒れてきたとき、あんたが自分を守るために力を使ったから、そのせいで。もしかしたら助かったかもしれないのに、あんたが、自分が助かりたいがためにみんなを殺したの。そのせいで、私…

キャピタル・C・インカゲイン その7

<22日、夜、仙台、繁華街> 稲玉士、爆発音の方角へ駆けつける 炎上するカプセルホテル、 人込み、雑踏、 消防、やじうま、報道陣などで騒がしい

キャピタル・C・インカゲイン その6

倉庫を包む炎はまるで収まる様子もなかった。それどころかいよいよ激しく燃え盛り、火の粉を散らし、夜空を禍々しい赤色に染め上げている。埠頭に座り込んでぼんやりとそれを眺めていた樹たちだったが、どこか遠くから消防車のサイレンが響いてくるのを聞い…

キャピタル・C・インカゲイン その5

――覚書 ・特記事項 名城線左回りで時間を遡行できるというのは事実で、適切な速度と遡行質量を合わせてやれば目的の時間に放り出されることがここまで一連の実験から明らかになった。 *詳しくは彼女の実験ノートを参照すること これを私の能力と応用させる…

キャピタル・C・インカゲイン その4

土曜日の朝、テレビのスピーカーが言った。「選ばれた者たちよ、約束の地はトウキョウである。始まりの時は近い。いざ、トウキョウへ!」 樹は立ち上がった。向かう先は、姉の部屋だ。選ばれた者たち、とはあの手紙によって力を得た者たちであることは考える…

キャピタルCインカゲイン その3

姉がいなくなった日から、樹は叔父夫婦と一言も会話を交わしていなかった。彼をこの家族へ繋ぎ止めていた唯一の楔が外れてしまっただけでなく、この夫婦にとっても、所謂希望の光という奴が消え失せてしまっていた。

キャピタルCインカゲイン その2

樹は声によって現実へと引き戻された。別に戻る必要もない乾ききった現実だ。それなのに何故、戻ってきてしまったのか。それは、樹に届いた声が、現実の忘却をも喪失させるほどに、不愉快極まりない音色だったからだ。その声は泣き声と呼べるほどに可愛らし…

キャピタルCインカゲイン その1

稲玉士がテレビをつけると、昼のワイドショーをやっていた。話題は、先日千葉で起きた謎の怪死事件である。いつも事件のあった近くをたむろしていた若者グループ5人が焼死体で発見されたという。警察では、事件と事故の両方の面から調べると発表されたが、…