キャピタル・C・インカゲイン その7

   <22日、夜、仙台、繁華街>

  稲玉士、爆発音の方角へ駆けつける

  炎上するカプセルホテル、

  人込み、雑踏、

  消防、やじうま、報道陣などで騒がしい
     

能力者……?(崩れた建物を見上げる、驚愕の表情)

     黒パーカーの少年

(士の背後から近寄りつつ、苦笑い気味で)あれ、あんた何で生きてんすか?

     

(素早く振り返る)

(一歩後退しながら)お前は、馬鹿第一号!

     黒パーカーの少年

馬鹿第一号? 

僕、六條順仁っていう名前があるんすけど。

     

(ロクジョウノブヒト? 

微妙に皇族みたいな名前だな、と考える)

(親指で後ろの燃える建物を指しつつ)あれはお前の仕業か。

     順仁

何で死ななかったんすか。(ニヤリと頭が悪い人みたいに微笑)

  士、いきなりその場から走って逃げ出す

  (走り出すときに一瞬進行方向と逆に上体を傾けることにより、

  飛び出しのスピード感が出る)

     順仁

あ、逃げるなっ。

(追いかける、ちょっと頭悪そうな走り方で)

  士の逃走劇、街灯りを追い越して走る、

  次第に2人は人気のない、

  暗い路地に入り込んで行く

     順仁

(能力で青白い炎を士に向けて発射)

     

(華麗に避けつつ反転し、順仁と向き合う)

なぜ俺を殺そうとする?

     順仁

あんた稲玉士って人だよね、

徒手帳落として行った。

目撃されたからにはあんたも殺さないとね。

     

(あれだけ派手に焼殺事件起こしておいて、

誰にも気付かれないと思っていたのか、こいつは、

今まで誰にも殺されなかっただけで強運なんだよ、

と思いながら黙っている)

     順仁

クイズです。これに正解したら、

あんたを見逃してやっても良いよ。

     

(いきなり何なんだこいつ、と考える)

     順仁

では問題です、僕の能力は何でしょうか?

     

火。(つまらなさそうに言う、

というかこいつ俺が一般人だったら、

能力とか言っても分からないということに、

気付いてるのか? と思いつつ)

     順仁

ざんね〜ん不正解。

やっぱりあんたを見逃すことはできないなあ。(ちょっと嬉しそう)

     

どうせ最初から見逃す気などないだろ。

     順仁

答えは、変装能力でした!

     

…………。

     順仁

おい、ここは「へん、そうかい」って返すところだろ。

まあいいや、この力で僕は別の人とそっくり同じ外見を手に入れ、

しかもそいつが能力者だったら能力もコピーできるっていう、

すごい力なわけっすよ。(得意げに話す)

     

(自分の能力を暴露するとか、こいつガキか、

でもこいつの言うことが本当なら、

面倒な力ではあるな、と考える)

     順仁

そういうことで、死んでください。(ここは真顔で)

(炎を再び士に向かって放射、すごい勢い)

     

(ここで力を使えばおそらく逃げ切れるだろう、

しかしそれよりも……、と考える)

  次の瞬間、炎が縦に真っ二つに切り裂かれ、

  そこを何かがビュッと通り抜ける、

  目にも止まらぬ速さでそれは順仁にぶち当たり、

  順仁吹き飛ばされる

  (通り抜けるのは鋭い風、カマイタチ、

  士は能力で風を生み出し、操る)

     順仁

(胸に傷を受けて倒れ、出血、悶える)

     

(順仁に近寄り、服の襟元をつかんで、

恐い人がやるみたいに引き寄せる)

これ以上俺に攻撃するなら殺すぞ、そして逃げようとしても殺す。

いいか、二度と俺の前に現れるな。俺と会ったことは忘れろ。(ここカッコ良く言う)

     順仁

ひっ!(恐怖、怯えの表情で頷く)

     

よしよし、子供は素直が一番だ。

言っておくが隙見て不意打ちしようとか思うなよ、

次は殺すぞ?(ヤクザっぽく言う)

     順仁

はい! 決してそのような真似はっ。(半泣き)

     

(殺すのは少し気がひけるしな、

まあこれでもう奴は近付いて来ないだろう、と考えながら)

さっさと消えろ。

     順仁

(一目散にその場から逃げ去る)

  辺りに風が吹いて、月が雲に隠れる、

  夜の闇が士の姿を溶かしていく、

  士、ネットカフェへと戻る



   <深夜、東京江東区、埠頭の倉庫跡>

  静寂の中、微かな波の音と共にロングコートの男の足音

     B‐A

(潮風って義足に良くないような気がする……、

と思いながら、おもむろに瓦礫をどけ始める)

(箱を作り出し、それを膨張させて瓦礫を吹っ飛ばす)

  やがてコンクリートの下から、崩れかけた階段が出現

     B−A

(どこか苛立った表情で、黙って階段を降りる、

ライターの火で灯りをとる)

  階段を降りきると、狭い廊下が続く、

  廊下の突き当たりには汚れた扉あり、

  その向こう側から微かに光が漏れ出ている

  B−A、扉を開ける、部屋は狭く暗く、

  精密機械が並び、そこから数多くのケーブルが伸びている

     B−A

おい、生きているか?

     眼鏡の初老の男

そう簡単にくたばるか、ボケ。

こっちだ、こっち!(暗い部屋の隅でB−Aに手を振る)

     B−A

(男の方を見て)そこか、教授。

死んでいなくて何よりだ。

     教授

(意地悪く笑い、)お前も元気そうだな、左腕以外は。

ったく、見事にヘマをこいたもんだな、

せっかく捕まえた矢羽樹と他1人に逃げられ、

しかもT−Rの姉ちゃんまで消されるなんてよ。

     B−A

それについては言うな、もううんざりだ。

     教授

しかし、失敗した時のために上の倉庫を爆破する用意をしてあったのは、

私としては感謝しておく。

あれで矢羽樹と他1人はこの地下室の存在を知る暇なく、

早急に脱出せねばならなかったわけか。

お前らと違って私は能力者でも何でもないからな、

ここがばれていたら命が無かったかもしれん。

     B−A

で、頼んでおいたのはどうだったんだ?

     教授

ああ、実は少し面白いことが分かった。

倉庫の床下に入れておいた測量計で、

ばっちり矢羽樹の種のデータは取れた。

     B−A

その測量計というのが、もう少し高性能で、

僕が箱の底を作っても測量できる物だったら、

結果的に矢羽樹に逃げられてしまうことも無かったはずなのだがな。

     教授

自分の失敗を他人のせいにするな、大人げないぞ。

     B−A

早く話の続きをしてくれ。

     教授

ええと、どれどれ、矢羽樹の種、暴走率6.6%、

奴が吸収した別の特殊な種の反応を確認。

弱い力だが引力が働いていることも分かった、

やはりCCIの親種があるというのは真実らしいな。

F−Gだったか、親種の情報はどこから仕入れたんだろうな。

     B−A

まあ、多分CCI関係者だろうが……。

で、面白いこと、というのは?

     教授

(B−Aの方に一歩踏み出して)聞いて驚け、

矢羽樹の中の種の力の向きはおよそ北北東、

だが力の向きには本当に微妙ではあるがブレがあった、

さらに力の強さもほんの僅かに上下していた。つまり……。

     B−A

親種は移動している? CCIの拠点が移動しているのか?

     教授

親種を所持している誰かが移動している、と考えた方が妥当かもな。

いずれにせよ、面白いだろう?

     B−A

(不機嫌そうな顔で)面白いものか。

結局、親種の正確な場所を突き止めるためにはやはり、

矢羽樹が必要ということじゃないか。

(舌打ち混じりに)本当ならばあの口の悪いガキを、

すぐに殺しているところだが、下手に手を出せない。

あの時だってわざわざ時限爆弾を仕掛けて、

逃げる隙を与えてやったんだ。

     教授

まあまあ、そんなにカリカリするなよ。

で、そうなるとまた矢羽樹をとっ捕まえる、ということか?

     B−A

ああ。まずは奴の左腕を切り取ってやる。

それから逃げられないように、両脚もだ。

     教授

(笑って)おい、殺すなよ?

     B−A

分かってるよ。ただあいつには僕と同じ苦しみを味わわせてやるのさ。

これも、トウキョウのためだ。

     教授

矢羽樹を捕らえる算段はあるのか?

     B−A

何とかするさ。考えはある。

前に矢羽がある人物と一緒に行動しているところを目撃した奴がいてね、

その人物を利用するつもりだ。

  B−A、部屋を出て行く、扉がギイと鳴る



   <朝、矢羽樹の部屋>

  樹、ベッドにて睡眠中

  窓の外は曇り空、薄暗い風景

  夢の中で誰かの悲鳴が上がる

  樹の記憶の中の、あの時の光景、重なり

  赤い、赤黒い、怒鳴り声と、恐怖

     子供の声

父さん、母さん!! いやだ! だれか、だれか助けて!

  鮮血、罪人、目の前の死者


     

っ!(慄然の表情、突然目覚める)

……どうしてこんな夢見るんだよ。(荒い息遣いで)

  目覚まし時計の針は9時半近くを示している

     

確か今日は学校休みになったんだったか……。

(着替えて居間へ向かう)

  居間には誰もいない、叔父夫婦は外出している

  テーブルには1人分の朝食の料理がラップをされ、残されている

  投げ出された朝刊には、埠頭の倉庫爆発事故の記事

  テレビをつけると、仙台のカプセルホテルの爆発事件が、

  東京の倉庫爆発事故とともに取り沙汰されている

     

(テーブルに座るが、食欲は無く、料理には手を付けない)

  ♪…… 携帯の着信音、水附花梨、の文字

     

――はい、もしもし。(暗い声で)

     男の声

――おはよう、矢羽樹君、水附花梨という子を知っているかい?

     

――誰だ?

     男の声

――僕を知らないとは言わせないぞ、

ついこの間、埠頭の倉庫ではお世話になったね。

     

――ああ、確か、B−A−K−Aだったか?

     B−Aの声

――よく聞けよ、今、水附花梨は僕らが人質として監禁している。

今からちょうど30分後に、彼女を殺す。

阻止したければ、今すぐに君1人で、池袋駅東の3ビルに来い。

そのビルの裏側の地下2階駐車場で待つ。

いいか、30分だ、分かったな。

     

――おい! 待て、どういう……

  携帯からは通話の終了を示す音が漏れてくる

     

(混乱する頭を落ちつけようと目を閉じる)

なんであいつ、捕まってんだよ……、

力使っていないのか?

(時計を見て、首を左右に振る、

何も要求をしてこなかったということは、

奴らの狙いは、俺ということになる、と考える)

  時計の針がカタ、と音を立てる、

  部屋に飾られた生前の矢羽楓の写真が照明を反射している

     

(あの時流れ込んだ姉の記憶を思い出しながら)でも……。

(花梨のことを偽善者と罵ったのに、

助けに行くのは馬鹿げている、

……姉ならこういう時どうするだろう?

おそらく自分のようにあれこれ考えず救出に向かうのだろう、と考える)

  樹、自室へ入り扉を閉める、居間には1人分の朝食が取り残されている

  樹の部屋の扉が再び音を立てて開く、

  財布を持った樹、走って家を出る、駅へ向かう



   <同時刻、池袋、地下駐車場>

     水附花梨

早耶佳! ねえ早耶佳でしょ?

私、水附花梨だよ、忘れちゃったの?

     B−A

新入り、あ〜……、M−E、

こいつと知り合いなのかい?(花梨を指差しながら)

     新入りの少女

はい? こんな奴知りませんけど、あたし。

怖くなっておかしなこと言ってるんじゃないですか?

  駐車場の一角、花梨はB−Aの箱に閉じ込められている、

  その箱のすぐ横にB−Aと新入りのM−E、N−Wという女の能力者

  彼らの周りには数十台の自動車が列になり並んでいる

  それらとは少し離れて、黒いバンが1台とまっている

     N−W

(B−Aを見て)矢羽樹は来ますかねえ?

そんなに素直な奴じゃないんでしょう?

     B−A

目撃情報によれば、奴は平日の昼間から、

その水附花梨と2人だけでハンバーガーショップにいたらしい。

そういうガキなのさ。

     N−W

なるほど、恰好のエサなわけかあ。

かわいそお、彼女。(ススス、と笑う)

     花梨

(樹君、来ちゃいけない、

これ以上迷惑をかけたら何と言われるか分からない、

これくらいなら隙を見て能力を使えば……、

でも早耶佳が近くにいたら力使えない! と考える)

     B−A

M−E、一応聞くが、水附花梨から能力反応は?

     新入りの少女

んなの、あるわけないじゃないですか。

能力者だったら今頃、箱を破ろうとしてもがいてますよ。

  花梨、僅かに首を傾げる

     新入りの少女

(花梨に背を向け、B−AとN−Wの方を向いて)ところでN−Wさん、

そのTシャツカッコいいですよね!

     N−W

お、良い目してんねえ、M−Eちゃん。

この松の図柄が何とも言えないのよお。

     新入りの少女

何つーんですかね、絵がチミツって言うか、センサイって言うか?

N−Wさんらしい感じですよね。

     N−W

やっぱ分かる人には分かるんだねえ、

オレの内面の良さは隠しても隠しきれないよ。

M−Eちゃんもそのマフラーは良いセンスしてる。

     新入りの少女

マジですか? やった!

     B−A

(大きくため息)君らさ、もう少し緊張感持ってくれないか。

     新入りの少女

(両手を後ろに回して組んで)あ、でしたね。すいません。

  新入りの少女の手が花梨の前で小さく揺れる、

  その手が開かれ、「大丈夫 少し辛抱してね by早耶佳^o^」の文字

  再びその拳は軽く握られ、親指を立てて「任しといて」サイン

     花梨

!!(一瞬目を見開く)



   <約束の時間まで残り10分、池袋駅ホーム>

     

(電車から降りる)

(立ち止まって)おい、何でついて来るんだよ、

ずっと俺を尾行してただろ。

     サイ

(驚いた顔で)よく気付いたな、

注意してたつもりなんだが。

     

ついて来ないでくれ、用事がある。

(歩き出して軽く手を上げて)じゃあ、急いでるから。

     サイ

(樹の隣を歩いて、顔は樹の方に向けずに)俺はお前の保護役なんだ、

前にも言ったけど、お前は俺たちの切り札だからな。

     

保護役、と言うより監視役じゃないのか?

     サイ

どうせまたあのテロリスト連中がらみだろ?

1人で行くのは無謀だ、俺も行ってやるよ、保護役として。

     

1人で充分だ。なあ、本当について来ないでくれよ。

     サイ

1人で来いと言われたのか? まさか、誰か人質を取られたか?

     

(不快そうに)うるさいな。

     サイ

何があった? 話すだけ話してくれ。

その上でお前1人で行くべきだとなれば俺はすぐに消えるから。

     

(横目でサイを見る)…………。

(ため息をついて)クラスメートがさらわれた、

3ビル地下駐車場にいる。

     サイ

奴ら、狙いはお前だろうな、親種の存在を知ったのか……?

相手はあの時、倉庫にいたあの男か?

     

……。

     サイ

やっぱりそうか。だったら俺も行く、止めても絶対に行くからな。

あいつには復讐しなければならない。

大丈夫、どこかに隠れるし、狙いがお前だったら、

その人質も簡単には殺さないはずだ。

それに、テログループに潜入してる俺たちのリーダーが、

どこか近くにいるか、味方を装って奴らのその作戦に参加してるはずだ。

     

リーダーがスパイだったのか?

     サイ

ああ、前に言ったよな、

リーダーは目の前の人物の言葉の真偽を読み取れる。

おまけに能力者を見るとそいつの能力の情報が大体分かるらしい。

スパイにふさわしいだろ、心眼能力。

お前が関わる件に、リーダーが気付いていないはずがない。

そして保護役の俺がお前と一緒に、

地下駐車場へ行くこともリーダーは分かってるはずだ。

だから俺たちがテロリスト連中と有利に戦えるように、

準備を進めているはずなんだ。

そうなれば人質のクラスメートも助けられる。

     

(眉をひそめて)やたらとリーダーに信頼を置いてるんだな。

俺からすると希望的観測に聞こえるけど。

     サイ

リーダーはそういう人なんだよ。

     

でもな……、(サイの目を見る)

いや、分かった。でもあまり勝手に暴れるなよ。

     サイ

ああ、最優先は人質の救出だ。

後で、リーダーを紹介できると思うよ、

そういうことだから死ぬなよ、切り札さん。

     

保護役が言うセリフとは思えないな、そっちこそ死ぬなよ。

見えた、あそこから地下駐車場に入れる。(3ビルと書かれた建物の下方を指差しながら)

  「P」と書かれた看板が見える。

     サイ

じゃ、先に行け。俺は別方向から入る。

     

(小さくうなずいて、走って地下駐車場の入り口へ)


  樹、階段で地下1階に駆け降りる

  辺りは静寂に包まれている

  さらに降りて、地下2階に到着

  約束の時間まではあと1分少々ある

  辺りには様々な車がズラリと並び、

  それらと同じように規則的に照明が並んでいる

  そして駐車場の一角に、いくつかの人影がある

     

(全速力で人影へ近寄り、)約束通り来たぞ。

     B−A

(無表情に)合格だ、この通り、まだ人質は殺していない。

  花梨が見えない箱の壁に手を触れる

     

(B−Aと、変なTシャツの女と、マフラーの……JKか?

3人だけ? 奴らは花梨が能力者ということは知らないはずだから、

それは分かるが、花梨はなぜこんな少数に捕まってるのか、

能力を使えば逃げることくらいできそうなのに、と考えながら、)

相変わらず趣味悪い真似してくれるな、

何がしたいんだよ、テロ屋さん?

     B−A

君の生意気なおしゃべりに付き合う気はない。

(花梨を指差して)彼女を殺されたくなければ、

大人しく僕らについて来てもらおう。

分かっていると思うが抵抗したら彼女の命はない、

僕らの目的が果たされるまで、君には協力してもらう。

     

俺に何をやらせたいんだ?(親種を探し出すためだと分かっているがわざと訊く)

     B−A

(樹の方へ歩きながら)それに答える必要がない。

君は黙って従えば良い。

     

(頭の横に人差し指を当てて)あーあ、これだからココの足りない大人は嫌なんだ。

     B−A

(樹のすぐ前に立ち)これ以上僕を怒らせない方が良いぞ、

君の生きて帰れる確率がどんどん低くなるからな。

……さて、まずこれは再会のあいさつだ。

(右腕で樹の頬を思い切り殴りつける)

  樹、地面に転がる

  花梨が小さく悲鳴を上げる

     N−W

おお〜、良いですねえ!

     B−A

(樹を見下ろして)当てる直前に体重移動して衝撃を吸収したな。

ふざけるな、さっさと立て。

     

(黙って立ち上がりB−Aをにらむ)

     B−A

僕の左腕を、返してもらおうか。

     

(不敵に笑って)どっかに落としたのか? ドジめ。

     B−A

償えと言っているんだ!

  ここで、突然誰かの走って来る足音

     新入りの少女(槻景早耶佳)

(いきなり花梨のもとを離れ)花梨っ!

     花梨

(力を使って周りを囲む箱を破壊)

     N−W

ええ! どういうことぉ?

     サイ

(早耶佳と花梨に)二人とも、あっちだ、早く逃げろ!

  早耶佳と花梨、駐車場出口へ走る

  B−A、箱を作って2人を捕まえようとする

  樹、黒を取り出してB−Aへ向ける

  B−A、樹の黒を避けるため早耶佳と花梨を閉じ込められない

  N−W、無数の巨大針(長さ1メートル、直径2センチくらい)を空中に出現させ、

  樹へ向け飛ばす

  樹、針を黒で飲み込み、そのまま黒をN−Wへ伸ばす

     サイ

(樹に)上だ!

  樹、頭上から降る針を黒に包み、前方からの針を避ける

  針は樹の背後の壁に深く突き刺さる

  サイ、青白い稲光をB−Aへ

     早耶佳

サイ、気を付けて! ここの車全部に爆弾が仕掛けてある!

それに当たったら……。

     サイ

やりづらいことこの上ないな、全く。

(早耶佳と花梨に)二人とも、とにかく逃げろ!

  早耶佳、花梨、姿を消す

     

(サイに向かって)おい、もしかして今のがリーダーかよ?

     サイ

そうだ。何だ? ゴツイおっさんか何かだと思ってたか?

     B−A

(憎々しげに)やってくれたな、新入りはスパイだったわけか。

おまけに人質は能力者か? N−W、矢羽樹は殺すなよ、

(サイを見て)あっちのは……今ここで殺せ。

     N−W

人遣いが荒いなあ、B−Aさん。

(数十本の針をサイへ飛ばす)

  サイ、絶え間ない針の攻撃をかわし続ける

  1本の針がサイの腿をかすり、出血

     

(サイに)おい大丈夫か?

(B−Aの箱に囲まれないように避けながら、黒をB−Aへ伸ばす)

     B−A

(樹に)うろちょろ逃げ回るだけだな、君は。

向こうの彼も針を避けるので一杯一杯だし、これは時間の問題だな。

     

お前らが負けるのが時間の問題、だろ?

(B−Aの箱能力も、距離の離れた地点には形成できない、

それに保存しておける箱の数にも限りがあるみたいだな、と考える)

     B−A

せいぜい言っていろ。

  N−Wの針の嵐がサイをかすめていく、

  サイ、ひたすら避ける、地面に刺さった無数の針が、

  もう隙間も見えないほど並んでいる

     

(サイを見て、まずいな……、と思う)

     N−W

(サイに)もう、逃げ場ないよお?

     サイ

(息を切らして)よし、完成、こんなもんで良いだろう。

  サイ、稲妻を目の前の地面に刺さった針に勢いよくぶつける

  バリバリと一瞬、音、

  その後何かの爆ぜるような重い音

     

(まさか爆弾が爆発したのか、と思い)おいっ!

     B−A

(サイをにらみ付けて)何をした?

  ドサッ、と崩れ落ちるN−W、

  地面に刺さった無数の針が黒く焦げてシュウ、と煙が出ている

     

(針の列で作られた電流の通り道を見ながら)

これを狙って避けてたわけか、やるな。

     サイ

気絶する程度にしておいてやった。

(B−Aに)でもあんたは別だ、弟の仇をとらせてもらう!

  サイの足元の地面に、細長い影が現れる

     

(サイに向かって)馬鹿、避けろっ!

     サイ

(ハッと、頭上を見上げる)

  顔を上げたサイの額に、N−Wの針が、

  槍のように突き刺さり貫通、

  針を払いのけようとして上げたサイの手が、ダラリと垂れる

  サイ倒れる、うつ伏せになったN−Wの手が、

  痙攣をやめて動きを止める

     

(呆然として)な……っ!

     B−A

(舌打ちして)やはり、ガキは調子狂わせるんだよな。

(ポケットの中のスイッチを押す)

  駐車場内の数十台の車が連続して爆発、

  照明が割れ、辺りは突然暗闇に包まれる、樹はB−Aの位置を見失う

     B−A

(足音を忍ばせて樹に接近)

  B−Aの付近、パタパタと靴音が鳴る

     B−A

(靴音の方向に、箱を作り出し)大人しく捕まれ!

  B−Aが箱を作り出した場所と違う方向から、全速力で走る足音

     少女の声

こっち、早く。

  2人分の足音が、階段を昇っていく

  やがて、いくつかの非常用照明が点灯

  薄暗く照らし出された駐車場に、惨状が現れる

     B−A

(箱を蹴りつけて)あのガキ……。

  箱の中には、投げ出された女性物のショートブーツが1足、閉じ込められている


  花梨、樹の手を引っ張って地上まで脱出、

  彼女の足にはソックスだけで、靴を履いていない

  2人は不安そうに待っていた早耶佳と合流

  辺りは地下からの爆発音に騒ぐ人々で既に騒々しい

     

逃げたんじゃなかったのか。

     早耶佳

君が矢羽楓さんの弟の、樹君ね。サイは?

     

(下を向いて)……やられた。

     早耶佳

(拳を握りしめる)…………。

とにかく、早くここを離れないと。

レジスタンスの拠点に行く、話はそれから。

     

分かった、そうしよう。

(花梨に)あの、もう手、離してくんない?

     花梨

(慌てて樹の手を離して)ご、ごめん。

     早耶佳

行くよっ。

  3人、駅へ走り出す

     

(花梨に向かって、靴を履いていない両足をちらりと見て)

どうして、駐車場に戻って来たんだ、今度こそ殺されるかもしれなかった。

     花梨

ブーツ投げる作戦は一応成功したみたいだね、

私はあの男の能力を破れるみたいだったし、大丈夫だよ。

     

(呆れながら)ったく……。

  3人は電車に乗り込み、花梨が深く息をつく

  昼前の電車はあまり混んでいない

     早耶佳

(樹に)サイから、レジスタンスのこととか、

あたしがそのリーダー、ってことは聞いたよね。

     

(うなずく)うん、もっと老けた男かと思ってたけど。

     早耶佳

(あまり楽しくなさそうに笑って)サイはどんな紹介をしたんだか。

レジスタンスの中じゃ、「ツキ」って名前で通ってる、

リーダーとは呼ばないでね、一応トップが敵に知られるとまずいから。

     

(少し肩を落とすようにして)またコードネームか、本名は?

     花梨

槻景早耶佳、だよ。

     

なんでお前が答えるんだ?

     早耶佳

あたしと花梨は中学の時の友達なんだよ、

あたしが引っ越したからだいぶ長い間会ってなかったけど。

     

何だそりゃ、なんか出来過ぎた話だな。

     花梨

でも事実なんだからさ。

     早耶佳

(花梨を見て少し笑う)うん。

ところで2人とも、稲玉士って高校生は知ってる?

確か2人と一緒の高校だった気がするんだけど。

     花梨

(声をひそめて)あ、彼とは同じクラスで、

事件に巻き込まれて亡くなったって言われてたんだけど、

前に彼が仙台にいるところがテレビに映ってたの。

     早耶佳

うん、東京の連続焼殺事件で死亡したって報道を見て、

あたしもその時は驚いたんだ。

だってそれ知る前にあたしは仙台で彼に会ったんだから、

死亡の日付より後に。

     

は? どういうことだ?

     早耶佳

うん、彼、能力者なんだ、たぶん……。

     

多分? たしかあんたの能力だと、能力者を判別できるんじゃなかった?

     早耶佳

うん、そうなんだけど……。

     

(首を傾げて)と言うかレジスタンスのリーダーがなぜ仙台に?

     早耶佳

実は、東京の連続焼殺事件の犯人の能力者が、

仙台に行くのを尾行してたんだ。

そいつ、うちのメンバーだったシンって子に擬態して、

シンの能力を使ってたみたい、そういう能力なんだね。

能力者が東京に集まって来てる中で東京を離れていくのは、

もしかしてテロリストの仲間かと思ったんだけど、

そうじゃなくて、彼は稲玉士を追って仙台に行ったみたい。

稲玉は焼殺事件に何らかの形で関わって、

犯人は犯行を知られたと思ったのかな。

     花梨

そういえば、どうして稲玉君のことを私たちに訊いたの?

     早耶佳

あ、そうだった、そうだった。

彼を、レジスタンスに加える必要がある、と思う。

あたしの予想だと、稲玉士の能力は……。

     花梨

ねえ、そのレジスタンスって何なの?

早耶佳は何をしようとしてるの?

     早耶佳

うん、もうすぐ着くからそれについては向こうで話すね。

テロリストに潜り込んで分かったこともあるから、それも。



   <夕方、名古屋市地下街>

  地下街はたくさんの買い物客でごった返している

  一軒の店に、男女の二人組の姿がある

     十六夜涼太

(瀬戸内律子に)状況はどう?

     瀬戸内律子

種の回収率は現在、約4割まで高まりました。

さらに首都圏外に居座る能力者も全体の2割を下回ったようです。

     涼太

地方に残った能力者たちにテロリストをけしかけて戦線に引きずり出す、

という話はどうなった?

     律子

“狐狩り”ですね。テロ組織急進派の立て直しの前に仙台において、

ある能力者によってカプセルホテルが爆破されました。

……これには稲玉士が関わっているようです。

     涼太

ああ、彼か。“狐狩り”についてはもう少し後になるかもね。

  お待たせ致しました、と言って、

  店員が2人に注文の品物を運んでくる

     涼太

(律子に)おお、確かにここのサンドイッチは美味いよ、君もどう?

     律子

(ホットコーヒーをひと口飲んで)いえ、結構です。

     涼太

(サンドイッチを頬張りながら)稲玉についてだけど、

はれのこほは、ほかほほーりょくはに――

     律子

(目の前の男をにらんで)食べてから話してくれませんか。

     涼太

彼のことは、他の能力者に気付かれていないのかい?

     律子

彼が、2つの種を所持していること、

そしてその片方は他の種を生み出す“親種”であること、ですか。

そうですね、“親種”の存在に気付いている能力者はいますが、

それが稲玉士に植え付けられていると知る者はいないようです。

本人でさえ自覚していないようですし。

     涼太

上の連中は、誰かにその“親種”を植え付けた方が、

“親種”の安全が確保されると思ったんだろうね。

ところで、あれの効果は、周りの能力者の能力停止、だったかな?

     律子

ええ、しかも“親種”の効果はCCI上層部が常に、

遠隔操作できる仕組みのようです。

     涼太

テロリストと、レジスタンスとかいうグループも稲玉士を狙っているわけだ、

万が一“親種”を奪われたらどうするんだ?

     律子

そこで双方がぶつかれば種の回収率はもっと伸びます。

そこでテロ組織に、矢羽樹の中の姉の種が“親種”と引き合う、

ということをリークしたわけです。

これで稲玉と矢羽をめぐって二重の争奪戦が展開されるはずです。

     涼太

実際についこの間は矢羽樹がらみで1人、種が回収できたようだしね、

ずいぶんと手回しが行き届いてるな。

     律子

十六夜さんの調査していた、テロ組織の最終目的、

については何か分かりましたか?

彼らは内部分裂していますが一応大まかな指針は共通でしょう?

     涼太

まあ、分かってみればくだらないものだよ。

奴らはトウキョウ、という能力者国家を構築しようとしている。

東京に独立帝国か何かを打ち立てるらしい。

“親種”を手に入れて、それで能力増強を図り、

後々まで帝国を存続させようという魂胆だね。

最終的にはトウキョウ帝国があらゆる面で世界を動かす、

という状況に持っていきたいのだろう。

     律子

なるほど、「世界を救う」だの何だのと言っていましたしね、

まさにテロリストといったところですか。

     涼太

まあ、こっちは彼らを利用するだけだよ。

(地下街の人波を眺めて)さて、名古屋も前より賑わってきたようだし、

こっちはナゴヤ国でも作るかい?

     律子

過去改変は順調ですが、やはりなかなか骨が折れるものですね。

     涼太

(笑って)まあ、頑張ろうじゃないか、

上の人たちのシナリオ通りじゃ、僕ら下っ端はつまらないしね。

  2人は席を立って会計を済ませ、店を出る

  そのまま地下街の雑踏に消える



(担当:御伽アリス)

 大変遅くなり、申し訳ありません。ストーリーを考えた時に、会話を中心に話を進められそうだと思い、こんな書き方にしてみました。

 次はうつろいしさんと飯田さんの順番をとばすとすれば、すばるさんということになりますね。よろしくお願いします。