キャピタル・C・インカゲインその11(3)

 月と星が凍てついた光を放つ空の下に、名古屋の街が広がっている。自分たちの過去改変の結果、日本一の中心性を持つに至った街が。能力者の戦闘によって早々に電気の道が断たれたため、明かりはまばらで、ビル群の大部分は真夜中の闇の中に黒々と沈んでいた。
 十六夜は、ビル屋上の手すりに両手をおき、時折北風に身を竦めながら、その街並みを眺めていた。ふと、人の足音を感じて振り返る。月と星のごく淡い明かりに浮かんだ瀬戸内律子が、こちらに歩いてくる。
「ここから見えますか?」
 隣までやって来た律子は、今まで十六夜が眺めていた方をちらりと見やった。十六夜は軽く笑みを作る。
「まあ、もちろん詳細なんて見えないけど。なんとなくの雰囲気は伝わってくるかな」
「では、数としてわかる結果をお知らせします。名古屋に呼び寄せたことで能力者同士の接触率、戦闘率が上がった結果、残った種の数は十五となりました」
 十六夜は、ひゅうっと口笛を吹いた。
「いいね。この分だと、明日中には最後の二人までいっているだろうね」
 言いながら、再び名古屋の街を見下ろす。かなり離れた一角で、光が闇の中に弾け散るのが小さく見えた。――名古屋まで呼び寄せられた能力者同士が、戦っているのだ。


「ルナ、上、気をつけて!」
 アンの鋭い声が耳を打ち、花梨ははっと上に顔を向けた。白く輝く光の玉が、いつの間にか頭上に浮かんでいる。
 慌てて後方に飛び退くと、今まで花梨が立っていた場所めがけて、その玉から稲妻が落ちてきた。轟音とともに目の前で光が弾け、一瞬視界が白く焼ける。
 さらに何歩か後ろに跳び離れると、アンが新たな光の矢を手の中に出現させるのが見えた。彼女は素早くそれを弓につがえ、前方に見えるビルに向かって引き構えると、一気に放つ。闇を切り裂いて飛んでいった光の矢は、ビルの中ほどの階に突き刺さり、そこで炸裂した。矢の命中した辺りが、膨れた光の中に呑みこまれていく。
「こっちに逃げましょう」
 言いながら走りだしたアンのあとを、花梨は追った。暗闇に沈んだ街の中を駆け抜けていく。しばらく走っていった二人は、やがて息を弾ませながら立ち止まり、後ろを振り返った。追ってくる様子はない。とりあえずは逃げ切れたようだった。
「まったく……殺さないように戦うというのも、結構難しいものね」
 髪を掻き上げながら言うアンに、花梨は曖昧に頷く。先ほどのアンの攻撃は、人影が見えていた辺りより左寄りに放たれていた。名古屋に着いてから何度か戦闘となった他の能力者に対しても、花梨とアンは彼らを殺そうとはせず、隙を見て逃げることを選んできた。CCIがホワイトキャッスル出現に向けて最後の淘汰を図っているのだから、それに乗せられないよう、なるべく種の融合を避けようとしているのだ。花梨は戦闘経験自体ほとんどないのでよくわからないが、アンによると、やはり相手を殺さないよう気をつけて戦うのは大変のようだった。
 ため息を一つ吐きだしたアンは、ふと、何かを感じたように顔を上げた。遅れて花梨もそれに気づく。気づいたときには、目の前に青年が現れていた。超速移動で街の様子を見回りに行っていたギルだ。
「駄目だな、やっぱり、CCIの奴らがどの辺にいるなんてのはわからないよ。明かりがないから遠くまで見通しが効かないし、そもそも人を見つけても、単なる能力者なのか奴らなのかなんてぱっと判別できない」
 首を振りながらのギルの言葉に、花梨とアンは肩を落とした。そう上手くはいかないだろうと思っていたが、やはりCCIの者を探し出すというのは、簡単ではないようだ。
「それに、やっぱりルークとの連絡もつかない。アンの方は……」
「私も何度か携帯にかけてみたけど、出ないわ」
 今度はアンの方が首を振る。それを聞いて、ギルは肩を落とした。ルークは昼間にギルの携帯にかけてきたときに、CCIの連中に正体がばれかけているかもしれない、と伝えてきたらしい。しつこくつきまとってくる彼らからなかなか離れることができず、そのときもようやく彼らの目を盗んで連絡を取ってくれたらしいのだ。彼がすでに殺されている可能性も高いことは、皆承知していた。
 気持ちを切り替えるかのように、アンはきっぱりした口調で言った。
「じゃあとりあえず、ギルも一緒に街を回りましょう。超速移動でぱぱっと見るだけよりも、じっくり街の様子を窺いながら見回った方が、もしかしたら見つかるかもしれない」
「ああ。……北の方は少し戦闘が少ないようだったから、もしかしたらそっちにいるかも」
 ギルの言葉にアンと花梨は頷いた。能力者の攻撃に警戒しながら、暗闇に沈む名古屋の街を、北に向かって歩き出す。


 扉をノックして名前を告げると、「入ってくれ」と声が返ってきた。クラリスは扉を開け、中に入る。臨時の施設のため、トップの部屋といってもあまり広くなく、造りも簡素だ。後ろ手に扉を閉めると、エリックは机の上に広げた資料から顔を上げた。
「どうだ、順調か?」
「そうね。残りの種の数は十四となったわ。減り具合としては順調よ。明日中には、最後の二人という状態にまで持っていけるでしょう。ただ……」
 言い淀んだクラリスに、エリックは先を促した。クラリスは一つ息を吐きだし、続ける。
「稲玉士の種が、残った種の中では飛びぬけて高いエキセントラ力を持っているわ。彼は能力無効化の力を持つ親種も保持しているから、彼が最後の二人のうちの一人となることはほぼ確実でしょう。これは別に予想通りなんだけど、監視員の知らせてきたところによると、これまで単独行動派だった彼が、水附花梨という能力者と接近してきているらしいのよ」
「ふむ。それで?」
「この水附花梨は、これまで一人も能力者を殺していない。つまり、彼女のエキセントラ力は、もともと彼女の種が持っていた分しかなくて、非常に微少なものなの。今は二人が別々に行動しているけれど、万が一二人がまた出会って、稲玉士が弱い水附花梨を守る形で他の能力者を殺していったら、最後には、水附花梨の種が持つ以外のすべてのエキセントラ力を蓄えた稲玉士と、たった一つ分の種のエキセントラ力しか持たない水附花梨とが残ることになる。そうなれば、アンバランスどころの話じゃないわ」
 ホワイトキャッスルを出現させる上で、バランスは大事だ。だからこそニューヨークの実験では、絶大なエキセントラ力を持つバレンタインを、最後の二人から外したのだ。パワーよりもバランスを重視するために。それなのにここにきて、こんな懸念が生じてしまうとは。不安を覚えずにはいられないクラリスに対し、しかしエリックはあっさりと言った。
「それに関しては問題ない。他のことはすべて万全なんだな?」
 クラリスは眉を寄せた。何が問題ないのか。聞こうかとも思ったが、口に出しかけてやめた。彼が結論だけをこんな風に言い切るときには、聞いても答えてくれるものではないとわかっていたからだ。クラリスは代わりに大きく頷いた。
「ええ、他は大丈夫よ。CCIに潜んでいた、テロリスト穏健派やレジスタンスのスパイは、少し前に始末したわ。組織の方に混乱や争いを起こしてもらうために泳がせていたけど、もう用済みだから。あと、私たちの方の種を除く準備も進んでいる」
 種をばらまいて能力者を作り出したのは、殺し合いをしてもらって、ホワイトキャッスルを出現させるだけのエキセントラ力を集めるためのものだったが、殺し合いに参加しないCCIメンバーにも種を付与したのは、それを使ってより効率的にプロジェクトを進めてもらうためだった。キャッスルを出現させるには、残った種は二つという状態でないといけないので、プロジェクトも最終段階に入った今、そろそろ自分たちの方の種は取り除かなければならない。
 クラリスの言葉に、エリックは少し頷いて、何かを考えるような表情をした。それから、不意に椅子から立ち上がる。
クラリス、ついてきてくれるか」
「どこへ?」
「例の奴らのところへ」
 クラリスは驚いてエリックを見た。
「あなた自らが行くの?」
「ああ。ついでに、崩壊前の名古屋を見収めておくのも悪くないしな」
 言いながら、エリックはクラリスの脇をすり抜け、扉を開ける。慣れているとはいえ、気まぐれな彼の行動に内心ため息をつきながら、クラリスはあとについて部屋を出た。
 狭い廊下を、二人で並んで歩いていく。ここは名古屋の地下に設けられた、臨時用のCCIの施設だ。あまり広くはないが、能力者の手の届かない場所なので、彼らの戦いに巻き込まれる恐れはない。地上へ向かうエレベーターを待っていると、ふと横のエリックが口を開いた。
「そういえば、クラリス
 顔を向けると、彼もまたこちらを見ていた。
「先ほど君は、明日中には最後の二人という状態に持っていけると言っていたな。だが、もっと早く、夜明けまでには、そこまでなっているだろう」
 思いがけない言葉に、クラリスは驚いた。
「夜明けまでに? あと五時間ぐらいしかないじゃない。残った能力者たちは、これまで勝ち抜いてきただけあって、そう簡単には死なないようなのが多いわよ。少し無理があるんじゃない?」
 思わずそう言うと、エリックは口の端を歪めるようにして笑った。彼の瞳が、何かを含んだようにきらめく。
「大丈夫だ。……必ず夜明けまでに、最後の二人にしてみせる」


 小さな異変を視界の隅に感じ、目の前の攻撃に対する集中が一瞬途切れた。視線をわずかに逸らしたとき、赤い光線が顔のすぐそばを掠め、アンは慌てて意識を前方に戻す。
 今、足元で、横から飛んできた何かが跳ねたような気がした。視界の縁をよぎっただけなので、見間違いかもしれないが、一瞬それで意識が逸れた。
 今、自分とギルは、それなりの広さを持つ公園で戦っている。ルナと三人で北を目指して歩いていたところ、今戦っている能力者が攻撃を仕掛けてきたのだ。逃げようとしたが、相手がしぶとく追いかけてきたので、三人で分かれてまこうとしたが、アンはこの公園の前で追いつかれた。逃げ切れないと判断し、公園に駆け込んで、木などを楯にしながら戦っていたのだ。途中で気づいたギルもやって来て、超速移動で敵の気を引いてくれている。ルナもそのうち来るかもしれない。
 アンは頭を一つ振り、手の中に光の矢を出現させた。弓につがえ、相手の隠れているはずの茂みの辺りに向かい、弦を引き絞る。放とうとしたそのとき、ふっと、手の先を何かが掠めた。
 はっと見開いた目に、目の前の地面に小さな穴がいくつも穿たれる様が映る。穴を穿つものの一つが、石にあたって跳ね上がった。間違いない、弾丸だった。今戦っている相手に、実は仲間がいて、それが援護しているとでもいうのだろうか。
「ギル!」
 やや前方の開けた場所で、超速移動で相手を撹乱していたギルに呼びかける。彼はそれを受けて、ちらとだけ視線を向けてきた。
「気をつけて! さっきから弾丸が飛んできてる。もしかしたら相手の仲間の援護……」
 かもしれない、と続けようとしたとき、不意にギルが、声を上げてその場にうずくまった。足を押さえたその手の隙間から、液体がしみ出しているように見える。はっとしたアンは、慌てて矢を能力者のいる茂みに放とうとした。だが――遅かった。
 飛んできた赤い光線が、うずくまったままのギルの頭を貫いた。ギルは突き飛ばされたように後ろに倒れ、そしてそのまま、動かなかった。
「ギル!」
 悲鳴のように叫んだが、反応はない。その代わりに、赤い光線が自分の方にも飛んできた。アンは木の陰に引っ込み、唇を噛みながら弓矢を握り締めた。とりあえず、あの能力者を何とかするのが先決だ。深呼吸をし、攻撃のために木の陰から少しだけ体を出す。だが矢をつがえようとしたそのとき、腕を熱い痛みが掠めた。
 小さく呻き声を上げて、矢を取り落とす。顔をしかめながら腕を見ると、まっすぐ走った傷から血が滲んでいた。やはり、誰かが遠くから自分たちを狙撃しているのだ。不思議と、頭や胸といった体の中心部分は狙われていないようだが。
 隠れている木が、光線があたる音とともに大きく揺れる。さっきから相手の攻撃が何度もあたっていて、向こう側の幹はかなりえぐれているはずだ。別の木に移った方がいいかもしれない。
 辺りを見回すと、少し離れたところに、ちょうどよさそうな大きな木があった。アンは矢を弓につがえ、素早く木から体を乗り出して、相手のいる茂みに向かって矢を放つ。光が炸裂した瞬間、だっと新たな木に向かって走り出した。だが、中ほどまで走ったところで、不意に右足を激痛が貫いた。
 アンは声を上げて、前のめりに地面に倒れ込んだ。歯を食いしばりながら、体をねじって右足を見ると、濃い色の液体がどくどくと溢れ出ていた。撃たれたのだ。どこか遠くから、この戦いを見ている狙撃者に。
 先ほど放った矢の光が収まっていく。このままでは格好の的だ。痛みを堪えて体を起こし、新たな矢を手に出現させる。だが、狙いをつけるために顔を上げたそのとき、アンは、自分に向かって飛んでくる赤い光線を見た。


 分かれる際に決めた落ちあう場所に来ても、アンもギルもいなかった。大丈夫だろうかと、心配しながら辺りを見回していた花梨の耳に、どこか遠くから夜闇を渡って、戦闘の音が聞こえてきた。
 花梨ははっと目を見開き、耳を澄ます。音は西の方から聞こえてくるようだった。西は、アンやギルが逃げていった方角だ。それに、今聞こえた炸裂音は、アンの光の矢が弾ける音ではないか。
 胸の奥がきゅっと縮む。花梨は慌てて西の方へと駆け出した。音を頼りに、暗い道を戦闘地目指して走っていく。進んでいくうち、音はどんどんはっきりと聞こえるようになっていったが、もう随分近くまで来たというときに、ぱったりと音がやんだ。
 花梨は立ち止まり、耳をそばだてた。やはり何も聞こえない。戦闘が終わったのだろうか。二人は逃げだせたのだろうか。きょろきょろと辺りに視線を配りつつ歩いていくと、ある程度の広さを持つ公園に突きあたった。
 公園の外側をぐるりと囲む木の幹の一つに、えぐれたような跡があるのを見つけて、花梨ははっとした。恐らくここで、先ほどの戦いがあったのだ。アンやギルは、この近くにいるのだろうか。
 花梨は中を覗き込みながら、公園沿いを歩いていく。茂みや木々の向こうの闇に、何か手がかりはないかと目を凝らしながら。だが、何メートルも行かないうちに花梨の足は止まった。
 花梨の視線も一点で留まっていた。公園の中。横たわっている二つの体。並ぶ木々の、枝葉の隙間から差し込む月明かりに、見慣れた顔がかすかに浮かんでいる。花梨は一瞬呼吸を忘れ、次の瞬間、喉の奥から悲鳴を上げた。
「アン! ギル!」
 公園を囲む茂みを、無理矢理に突っ切って中に入っていく。尖った枝が足元を引っかいたが、痛みなど感じていられなかった。まろぶように茂みから抜け出ると、一直線に二人のもとに走っていく。
「ギル! ギル、しっかり……」
 花梨はギルのそばに膝をついたが、その額に空いている穴に、心臓を握り潰されるような衝撃を覚えた。完全に死んでいる。震えと悪寒が這い上がり、頭の芯がぐらりと揺れたが、花梨は必死にそれを耐えて立ち上がり、アンの方へ行こうとした。
 そのとき、目の前を赤い光線が走った。はっとして足を止め、光線の飛んできた方向に顔を向ける。闇の中に、ちかっと赤い色が見えた気がして、花梨は能力を解放した。拒絶の力が広がった瞬間、また赤い光線が飛んできたが、それは拒絶の力場に沿うようにぐにゃりと曲がり、花梨にあたることなく後方へ流れていった。
 花梨は動くことなく、じっと光線の飛んできた方向を見ていた。と、がさり、と音がして、暗闇の中から一人の男が出てきた。男は慎重な足取りで月明かりの下に進み出てきたが、そこで足を止め、花梨の顔を見てふっと笑った。
「……やっぱりお前の力は、遠くには及ばないらしいな。お前は、さっきこいつらと一緒にいた奴だよな? お友達か?」
 どこか小馬鹿にするような口調だった。花梨は、かっと頭に血が上るのを感じた。
「そうだよ。……あなたが二人を殺したんだね?」
 怒りに震える声でそう言うと、男はあっさりと頷いた。
「ああ。俺たちは戦うために呼ばれたんだ、当然だろう。でも、こいつらもなんか変だったぜ。こっちは何もしてないのに、急にうずくまったり転んだりしてさ。だからまあ、こいつらにも落ち度があるっちゃあったんじゃねえの」
 嘲るように笑った男は、不意に、その目を鋭く光らせた。
「ま、安心しなよ。お前もすぐあとを追わせてやるよ!」
 言葉と同時に、再び赤い光線が飛んでくる。花梨も拒絶の力で防いだが、立て続けに飛んでくる攻撃に、少しだけ力場が揺れた。本来なら大体の能力者の攻撃は受け付けない自分の能力だが、相手の力が強いのだ。そもそも自分はこれまで一人も能力者を殺しておらず、恐らく多数の能力者を殺してきただろう相手とは、種の持つエキセントラ力が違うのだろう。何度も何度も攻撃を受け、拒絶の力を保っているのが次第に苦しくなってきた。
 どこかに隠れた方がいいかと、視線を滑らせた瞬間、集中が途切れて拒絶の力がふっと弱まった。花梨がはっとした瞬間、光線が飛んできて、弱くなった力の壁を突き抜けてきた。とっさに身をよじっていたため、体にあたりはしなかったものの、足がもつれてその場に転んでしまう。地面に倒れ込みながら、花梨は傾いていく視界の中で、男の笑う顔を見た――。
 そして、男は光線を発射しなかった。いや、発射できなかったのだろうか。体を起こした花梨には、男の顔が奇妙に引き攣ったように見えた。
 不意に、風の駆け抜けるような音がした。と、男の腕から血飛沫が上がった。男は声を上げて腕を押さえ、驚愕の表情を浮かべて顔を横に向けた。花梨も彼の視線を追い、はっと目を見開く。男のそばの木の陰から姿を現したのは、稲玉士だった。
「稲玉、君……」
 花梨は思わず呼びかけたが、彼はこちらに視線を向けてくることなく、男だけを見ていた。男は顔を歪ませる。
「お前、何をした……?」
「失せろ。死にたくなかったらな」
 突き離すような口調で、士が言い放つ。男はしばらく士を睨んでいたが、どうしても能力を使えないとわかったのだろう、やがて悪態をつきながら、よろよろと公園の出口に向かって歩いていった。その姿が公園から出て、闇の中に消えていったのを確かめてから、初めて士は花梨の方を見た。はっとする花梨の方へ、彼は無言で歩いてきたが、ある程度距離のあるところで足を止めた。黙ったままの彼に、花梨は慌てて礼を言う。
「ありがとう、助けてくれて」
「別に……」
 呟くように士は言い、また口を閉じた。大丈夫かと聞いてくることもない。人と話すことが少ない彼なので、こういうときに何を言ったらいいのかわからないのかもしれなかった。士は視線を花梨から外し、地面に転がっているアンとギルを見回してから、ようやくまた言葉を発した。
「……やられたのか、こいつら」
「うん……」
 花梨はぎゅっと手を握り締めながら答えた。やられてしまった。せっかくここまで来たというのに。涙の滲む目で、花梨はかたわらのアンを見た。仰向けに横たわる、胸元を血で染めた彼女をじっと見つめた花梨は、しかしあることに気づき、はっと目を見開く。
 顔にかかったアンの髪。鼻の辺りのそれが、ほんのかすかに揺れていた。
 生きている。
「アン……っ!」
 花梨は叫びながら、覆いかぶさるようにして、その両肩に手をおいた。揺さぶっていいのかわからず、ただ耳元で何度も呼びかける。と、アンの瞼がかすかに震えた。はっと顔を引いた花梨の前で、アンはそろそろと目を開いた。ぼんやりとした瞳だったが、次第に花梨の顔の上に焦点が結ばれていく。
「ルナ……?」
 こぼれた弱々しい声に、花梨は必死で頷いた。
「しっかりして! そうだ、今手当てをするね! 止血を……!」
 言い募る花梨に、しかしアンは、首を振るようにわずかに顔を動かした。
「無理、よ……。自分でもわかるわ、私はもう死ぬ」
 アンは小さく咳き込んだ。濁った咳の音と共に、血の飛沫が吐き出される。声を失う花梨に、やがて咳の収まったアンは言った。
「ごめんなさいね……最後まで、一緒にいられなくて」
 苦しいだろうに、何とかその顔に笑みを浮かべようとしている。
「でも、こんな別れ方でも、あなたと仲間として戦えて、よかった……。最後に一つだけ、お願い……。CCIの野望を食い止めるのを、諦めないで。私たちがいなくても、あなただけでも生き残って、ホワイトキャッスルの召喚を、やめさせて……」
 アンの喘ぎが、だんだんと弱々しいものになっていく。
「諦めない、で……。諦めないでいれば、そこに希望が、あるかもしれない……。見えないと思っていた道が、開けるかも、しれない……。だから、おねが、い……」
「アン!」
 目を閉じたアンに、花梨は必死に呼びかけた。手を握り、肩を揺すり、何度も何度も名を呼んだ。だが、アンは二度と目を開けることはなかった。
 花梨はアンの手を両手で握り締めたまま、声を殺して泣いた。アン。ギル。知り合ってからはまだほんの数日だったけれど、二人の存在が、手探りで進むしかなかった道の中で、どれほど支えになったことか。どれほど前に進む勇気をくれたことか。
 花梨はしばらくそうして泣き続けていたが、やがて悲しみに荒れ狂っていた胸の内が落ち着いてくると、何度も目を拭い、立ち上がった。少し離れた場所からずっと見ていた士が、意外そうな声を投げてくる。
「もういいのか?」
「……うん。本当はずっといたいけど、そんなんじゃ、アンの最後の願いを叶えられない」
 震える息を吸いこんでから、花梨は言った。
「CCIの人たちを、探さなきゃ。探して、見つけ出して、こんなことをやめさせなきゃ。ホワイトキャッスルの召喚なんて、させるわけにはいかない」
「何なんだ、そのホワイトキャッスルって」
 胡乱気な口調で、士が聞いてくる。そういえば彼は知らないのだと思いあたって、花梨は手短にキャッスルのことを話した。
「じゃあ、結局それが何なのかっていうのはわからないわけか」
 頭を掻きながら言う士に、花梨は小さく頷いた。
「うん。でも、絶対平和利用ではないと思うよ。ものすごい数の能力者を犠牲にして呼びだすものだし」
「そんなものを呼びだすのに使われたら、最後の生き残りの二人もどうなるかわからないよな。結局生き延びるには、CCIの計画そのものをぶっ潰すしかないってことか……」
 再び頷く花梨を見て、士は自分の顎に手をあてた。それから息を一つつく。
「じゃあ、俺も探そうかな」
「え?」
 思いがけない言葉に花梨が驚くと、士は軽く鼻を鳴らした。
「俺だって死にたくはないしな。まあ、前は、死ぬのはしょうがないから好きなことをしておこうって思ってたけど、ここまできたんだし、やっぱり死にたくない気がしてな」
 そう、と、何となく納得したような花梨に、士は、で、と聞いてきた。
「どこを探すつもりだ?」
「え? 稲玉君、もしかして一緒に探してくれるの?」
 先ほどよりさらに驚いて、花梨は尋ねた。てっきり、彼は花梨とは別に一人で探すと思っていたのだ。花梨の問いに、士は一瞬はっとしたように目をしばたたかせてから、やや複雑そうな表情を作った。
「……まあ俺も、クラスメイトが死ぬのはあんまり気分よくないしな。お前、どうせ今まで能力者を殺してなくて、力が弱いんだろ。それじゃあ、お前一人でいたら、簡単に殺されるのは目に見えてるし」
 ぶっきらぼうな口調で言う彼を、花梨は見つめた。これまでずっと、花梨とも他のクラスメイトとも、関わり合いを極力避けているようだった士。その彼がこんな風に自分を気遣ってくれるとは。もはや戦いと無関係でいられないと自覚して、彼の心にも何か変化があったのだろうか。一瞬だけ、矢羽樹のことが――自分を疎むようだった彼の瞳から、しかし確かに少しずつ冷たさが薄れていっていたことが頭に浮かんだ。
「……一緒に来てくれるんだったら、嬉しいよ。ありがとう。探すアテはあんまりないんだけど、北の方はちょっと戦闘が少ないらしいから、そっちの方にいるかもしれないとは思ってる」
「じゃあ、とりあえず北に行くか」
「うん」
 花梨は手を握り締めた。絶対にCCIを止めなければいけない。レジスタンスの二人が果たせなかった願いを、自分が成し遂げなければ。こんなところで立ち止まっているわけにはいかなかった。
 最後にアンとギルそれぞれに手を合わせ、黙祷をしてから、花梨は士と共に歩き出した。冷たい冬の夜の先を、しっかりと見据えながら。


 律子の携帯が鳴ったのは、そろそろ名古屋の臨時施設に戻ろうと、ビルを降りたときだった。律子は携帯を取り出し、十六夜から少し離れながら、電話に出た。
 十六夜はポケットに両手を入れ、暗闇に沈む道の先を眺めながら、律子の電話が終わるのを待った。と、ふと、彼女の声がかすかに驚きを含んだのがわかった。
 十六夜は律子の方に視線を向ける。彼女は携帯に向かい、何度も念押しするように話していた。やがて彼女が携帯を耳から離し、電話を切るのを見てから、そっと尋ねてみる。
「……何だったんだい? 何か、驚いていたようだけど」
「ええ。驚くような内容です。実は……」
 律子はすっと十六夜を見つめた。いつも平静なその瞳に、今はかすかな困惑が浮かんでいる。
「種の減るペースが、異常に早くなっているようです。先ほど十五と言いましたが、現時点ですでに八つになったということです」
 十六夜は驚きに目を瞠った。
「八つ? 何でそんなに早いんだい。残った種の保有者は、しぶといのばっかりじゃなかったのか」
「わかりません。今、何が彼らの間に起こっているのか。――ただ……」
 言いさして、律子は少しだけ、迷うような表情を見せた。訝る十六夜の前で、彼女は一つ小さく息をつき、もう一度十六夜を見据えた。
十六夜さんは、おかしいと感じていませんか」
「おかしいって? どういうことが?」
「たとえば、今まで私たちがこの屋上にいたこと。一度名古屋の街全体の様子を窺う、ということ自体は別にいいのですが、なぜそれを、私たちマネージャーがやらなければならないのでしょう?」
 そう言われて、十六夜は黙った。確かにそれは、自分も感じていたことだった。自分の反応を見て、律子は頷きながら続ける。
「それに、はっきりとは言えないのですが、何だか私たちは、情報から疎外されているような気がしませんか? 大井剣也のホテルの件もそうだし、今も、なぜこんなに種の淘汰が早いのか聞いても、明確な答えは返ってきませんでした。……マネージャーであるはずの我々なのに、まるで、もう用済みだと言わんばかりなのです」
 十六夜ははっと目を見開いた。律子が何を言いたいのか、理解したのだ。
「じゃあ、君はつまり……」
 深刻な口調で言いかけた、そのときだった。
 不意に、体の中心から、何かがするりと抜け出ていくのがわかった。何か――それまでずっと胸の中心に宿っていた、灯のような小さな熱さが。
 息を呑んだその瞬間、脇腹を、鋭い衝撃が突き抜けた。次の瞬間、それは激痛となって十六夜を襲う。
「…………っ!」
 十六夜はそばのビルの壁に倒れ込んだ。体を自分の足で支えられず、ずるずるとその場に座り込んでしまう。律子が声を上げるのが上から聞こえた。血の溢れる傷口を押さえ、歯を食いしばって痛みに耐えていると、先ほど見ていた道の先から、冷たい声が聞こえてきた。
「そう。今君たちが考えた通りだよ」
 聞いたことのある声だった。十六夜は喘ぐように息を継ぎながら、そちらの方に顔を向ける。
 そこに立っていたのは、CCI創始者でありトップのエリックと、いつも彼と共にいるクラリス。エリックはサイレンサーつきの拳銃を、クラリスは奇妙な小型の装置のようなものを持っていた。エリックの銃口は、揺れることなく十六夜たちに向けられている。
「君たちは、私の計画を掻き乱そうとした。ひそかにやっていたつもりだろうが、私はそれを知っていた。君たちが今おかしいと思ったことも、私の意図が入ったことによるものだ。だがね、実は私は、君たちには感謝しているんだよ」
「感謝?」
 律子が、硬い声で聞き返す。十六夜が痛みを懸命に堪えて彼女を見上げると、彼女は今まで見たことがないほど険しい表情で、エリックたちの方を見据えていた。
「そう、感謝だ。君たちのおかげで、よりプロジェクトの成功率が高まったのだから」
 もう一度、エリックたちの方に視線を向ける。まっすぐにこちらを見る彼の背後に立つクラリスは、彼の言った意味がわからないのか、困惑した表情をしていた。
「エリック、どういうこと? 成功率が高まったって……」
 彼女が聞くと、エリックは十六夜たちから視線と銃口を外さないまま、淡々と答えた。
「そのままの意味だ。クラリス、この際だから話しておこう。私はずっと、君のいた世界のことを調べていた。こちらの世界にも、非常に希少なものだが、そちらの世界についての記録や資料があったんだ。恐らく、何らかの方法で二つの世界を行き来していた者がいたんだろう。その資料の一つによると、二つの世界には、それぞれ目に見えない力の流れがあるらしい。磁場のようなものかな。その力の流れには、淀んで吹きだまりのようになっている箇所が所々ある。そして二つの世界の吹きだまりが重なるところは、世界の境界が薄いらしい。だから、ホワイトキャッスルを召喚するには、エキセントラ力と、セントラポテンシャルのほか、この力の吹きだまりも重要だった」
 冷たい風が吹き抜ける。凍るようなその冷たさが、激痛に呑まれてしまいそうな意識を何とか現実に留め置いてくれる。だがそれ以上のことは何もできず、十六夜はただエリックの声を聞いていることしかできなかった。
「私がその力の流れについて調べているときに、この二人が過去を改変して、名古屋をホワイトキャッスル出現の地としようとしていることが発覚した。そのときには、くだらないことをすると思ったよ。確かに東京は中心性、志向性はあまり強くないが、力の吹きだまりが重なるところだ。セントラポテンシャルの弱さに目をつぶっても、十分キャッスル出現にいい場所だと思っていたんだ。だが――本当にこれは気まぐれなんだが、名古屋の力の流れも調べてみることにしたんだ。どんなものかと思ってな。それで、資料に載っていた測定方法で調べてみた結果……驚くべきことがわかったんだ」
 そこで、エリックの声に、かすかな笑みが滲んだ。
「名古屋は、東京よりもさらに、キャッスル出現に適した場所だったんだ。名古屋と、重なる部分の向こうの世界の力の流れは、ひどく淀んでたまっている。このことを知った私は、この二人にこのまま過去改変を続けてもらって、お望み通り名古屋にセントラポテンシャルを集めてもらうことにした。それからさらに様々な計算を続けた結果、今日の夜明けに、二つの世界の境界が極めて薄くなるらしいことも判明した。つまり、夜明けにキャッスル召喚を実行すれば、その成功率はこれ以上ないほどに高くなるということだ。だから私は、CCIの中でも射撃の腕に優れた者に、戦闘から離れた地点から、一方の能力者を援護するよう指示したんだ。早いところ決着をつけてもらうためにな」
 そこで、エリックの笑みが一層深くなった気がした。彼の指が、軽く動く。と、耳元で風が唸り、次いで、頬にかすかな痛みが走った。
「君たちはよく働いてくれたよ。だが……反逆分子はいらない」
 笑みを浮かべる彼の瞳は、しかし冷酷な光を放っていた。
「君たちが大井剣也のホテルに赴いたときに、CCI役員の一人が待っていただろう? 六条順仁に殺されてしまったが。本来ならあのときに、君たちは死んでいたんだ。彼には待ち伏せして、殺すように指示を出しておいた。だが君たちは順仁のおかげで運よく生き残った。それなら、せっかくだからと思って、今まで生かしておいてやったんだ。だが、それもここまでだよ。君たちの種は、先ほど抜き出した。もう今の君たちには、何もできない」
 抜き出した種、というのが、先ほど体から抜けていった熱さなのだろう。恐らくクラリスが持っている装置が、能力者から種を取り除くためのものなのだ。確かに今はもう、時間停止の力がないことが、直感でわかっていた。
 そのとき。不意に律子が声を上げた。
「……私たちをわざわざここに来させたのは、なぜです?」
 それまで主に十六夜を見ていたエリックの視線が、彼女に向けられた。
「別に、大した理由ではない。ただ、いくら臨時とはいえ、CCIの施設を血で汚すのは気が進まなかったというだけだ。仙台の本部の方では多くの死傷者が出てしまったから、なおさらな」
「プロジェクトのためにおびただしい血を流したというのに、自分の庭が汚れるのは気に入らないのですか。何とも身勝手なものですね」
 挑発するような口調だった。普段の彼女は使わないような口調だ。エリックは不快そうに目を細め、銃口をぴたりと彼女に据えた。
「最後の反抗のつもりか。だが、減らず口もそこまでだ」
 エリックが引き金を引いた。サイレンサーのぷしゅん、という小さな音と共に、弾丸が銃口から発射される。
 律子は、エリックが指を動かした瞬間、横に足を踏み出して体をひねっていた。弾丸が耳のそばで唸る音を聞きながら、手を懐に入れる。今度は逆方向に体を移動させ、再び飛んできた弾丸をよけながら、懐から抜いた腕を振り抜いた。
 黒い小さなものが、エリックたちの方に放られる。はっとしたエリックは、宙をよぎってくるそれを撃った。両者のちょうど中間辺りで弾丸があたったそれは、突然目もくらむような強い光を発した。
(閃光弾……!)
 眩い光に、目を開けていることすらままならない。エリックは手探りでクラリスの腕を掴むと、道の端に引き寄せた。女マネージャーが、あてずっぽうで攻撃してくる可能性もあったからだ。しばらく二人は道の端で体を低くしていたが、何事もなく、やがてゆっくりと光が収まってきた。エリックは、体を起こし、先ほど二人のマネージャーがいた辺りを見る。ちらちらと光の残像が揺れる視界の中に、二人の姿はなかった。
「……逃げられたようね」
 クラリスが、同じ方向を見ながら呟いた。エリックは小さく息をつく。
「まあ、いいだろう。この手で仕留められなかったことは口惜しいが、どうせもうすぐこの街は崩壊する。男の方はあの怪我では逃げられないだろうし、女も、男を連れていったということは、見捨てて逃げることもできないだろう」
 エリックはクラリスに顔を向けた。
「そろそろ、この街から出る準備をした方がいいな。施設に戻って皆の種を除き、同時に移動の用意をさせよう。ああでも、監視員や、能力者の戦闘に介入している射撃手たちは、ぎりぎりまで配備しておこう」
「……了解」
 クラリスがため息混じりに言った。力の流れのことなど、重要事項を知らされずに計画を進められたことを不満に思っているのがありありと伝わってきたが、エリックは特に気にしなかった。黙ったまま施設の方向へ歩き出すと、クラリスがあとからついてくるのがわかった。


 暗い夜道を、律子は十六夜と共に歩いていた。十六夜に肩を貸している形だが、彼は足に力が入らないようで、体重のほとんどが律子の肩にかかっている。律子はふらつきながらも、何とか十六夜の体を支え、ゆっくりと足を進めていた。
「律子さん、駄目だ……」
 荒い息の下で、十六夜が言った。
「こんなんじゃ、夜明けまでに逃げ切れない。僕のことはいいから、この街が崩壊する前に、律子さんだけでも脱出して……」
 弱々しいその訴えに、律子は耳を貸さなかった。ただぎゅっと口元を結び、闇の先を見据えながら、彼の体を支えて歩いていく。


 北の地区は、確かに能力者はいないようで、戦闘のような物音はどこからも聞こえなかった。それでも辺りを警戒しながら、花梨は士と共に街を回った。秘密組織の拠点としてちょうどよさそうな廃ビルのほか、道路や公園など、様々な場所を探していく。
 だが、やはりどこにもそれらしき人間はいなかった。随分長いこと探し回り、さすがに疲れた花梨たちは、たまたま見つけた小さな公園に入り、そこにあったベンチに腰を下ろした。しばらくお互い無言で、足を休める。
「……見つからないね」
 ぽつり、と花梨が呟くと、ややあって、士がああ、と答える。
「探すっていっても闇雲だしな。絶対に俺たちの目につかないような隠れ家があるのかもしれないし」
「うん……それでも、出入りするところを見た人がいるかもしれないし、朝になったら住民の人たちに聞いてみてもいいかもしれないけど。ただ、それまでに種の淘汰がどこまで進んじゃうか……」
 花梨はかすかに顔をうつむけた。
「今、どれぐらいの能力者が残ってるのかな……」
 誰に向けたわけでもない呟きだった。が、思いもかけない方から、それに答える声があった。
「――多分、もう俺とあんたたちだけじゃないかなあ」
 声と同時に、足の裏を通して、地面の底が動く気配があった。はっとした花梨と士は、慌ててベンチから立ち上がり、駆け出した。二人が離れた直後、ベンチの下の地面から、上に尖った巨大な石の塊が何本も突き上がってきた。それはベンチに突き刺さり、粉々に砕く。
 花梨たちが、素早く声のした方を見ると、いつの間にかそこに男が一人立っていた。月光に、にやにやと嫌な感じに笑うその顔が浮かんでいる。
「街の中心部にいた奴ら、みんな俺が殺しちゃったからさ。もう誰も残ってないかと思ったんだけど、こんなところにいたとはねぇ。最後の獲物だろうし、楽しく殺させてもらうよ」
 残虐な喜びに溢れるその顔を見て、話し合いは通じないなと花梨は悟った。できることなら、戦わずに済ませたいのだが。そう思っているうちに、地面が再び揺れ出した。大きなものが迫ってくる気配を感じ、花梨は拒絶の能力を解放しながら横へと跳んだ。
 巨大な石の槍が、地響きとともに何本も突き上がってくる。そのうちの一本は、拒絶の能力を使っているはずの花梨の体すれすれを掠めた。他の能力を弾く力なのに、あっさりと破られた。恐らく相手は、花梨たち以外のすべての能力者を殺して、凄まじいエキセントラ力を持っているのだろう。自分がかなう相手ではない。だが、士なら。花梨は続けざまに襲ってくる石をよけながら、同じく攻撃を避けている士に呼びかけた。
「稲玉君!」
 士はちらりとこちらに目をやり、頷いた。次の瞬間、地面の振動が不意にやんだ。地表に出ていた石槍もぴたりと動きを止め、束の間その巨体を晒したあと、跡形もなく掻き消える。あとには、ひどくえぐれて凹凸のある地面があるだけだ。
 能力者の男が、何が起こったのかわからない様子で、ぽかんと花梨たちを見ている。士は、彼を睨みながら言った。
「お前の能力を無効化したんだ。今のお前には何もできない。わかったらとっとと俺たちの前から失せろ」
 突き離すような士の口調に、男の頬がぴくりと引き攣る。呆然とした様子が消えていき、代わりにその顔に憎しみが浮かんでくる。花梨は悪態でもついて逃げていくだろうかと思ったが、男は思いもよらない行動に出た。
「この……ふざけやがってぇ!」
 一声叫ぶや、男は懐からナイフを取り出し、一直線に士に向かってきた。一瞬虚をつかれた様子の士だったが、向かってくる男に、ちっと舌打ちをする。
「ったく、馬鹿じゃないのか……」
 苛立った口調で言う彼の周りに、鋭さを含んだ風が起こる。そのまま彼は、風の刃を男に向かって放った。
 そのときだ。走っていた男の片足が、不意に膝から曲がった。まるで急に力が抜けたみたいだ。男はそのまま、前のめりにつんのめる。
「あっ……!」
 士と花梨は同時に声を上げたが、遅かった。男の足を狙って放たれた風は、倒れてきた男の首筋にあたった。切り裂かれた男の首元から、ぱっと血が噴き出す。
 地面に倒れ込んだ男は、ほんの少しの間だけもがくような仕草をしたが、すぐにその動きはやんだ。花梨と士は慌てて男のもとへ向かう。士の方が先に男のそばに辿り着き、しゃがみこんで男の手首を取ったが、やがて小さく首を振った。
「死んじゃったの……?」
「ああ」
 小さな声で尋ねる花梨に、士は頷いた。
 そのとき、花梨の肌がぞわりと騒いだ。はっとする花梨の前で、男の体から、凄まじい力の奔流が噴き上がる。恐ろしいほどに巨大なその力は、そのまま一気に士へと流れ込んでいった。すべての奔流が入り尽くし、空気が収まってきたところで、士はとっさに閉じていた目を開け、顔をしかめた。
「……エキセントラ、だっけ。今の、すごく強かったな。確かに、残りの種の力全部合わせたぐらいはあったのかもしれない」
 花梨は黙って頷いた。確かに今流れたエキセントラ力は莫大なものであり、そしてそれを合わせた士の持つエキセントラ力は、それこそとてつもないほどの大きさになっていた。こうして近くにいるだけでも、その身の内に宿るあまりに大きな力を体が感じていて、息苦しくなるような圧迫感がある。
 士は男の血で染まった首筋から、その足へと視線を移した。左の足首辺りのズボンにも、血が染みていた。
「今、何が起こったんだ? どうしてこいつはいきなり怪我したんだ」
「そういえば……」
 花梨はふと、アンとギルを殺した能力者が言っていた台詞を思い出した。こっちは何もしてないのに、急にうずくまったり転んだりしたと。そのことを告げると、士は眉をひそめた。
「誰かが、戦闘に手だししてるのかもな。どこか遠いところから」
「でも、能力者はもういないんじゃ……」
 そこで花梨ははっと目を見開いた。
「もしかして、CCI?」
「かもな。さっさと俺たちに決着つけてもらって、そのホワイトキャッスルっていうのを早いとこ呼びだしたいのかもしれない」
 花梨は素早く辺りを見回した。だが、見通しの利かない闇の中に、それらしき人影は見えない。
「どうせ、ずっと離れたところから攻撃してるんだろ。でもまあ、とりあえず探しに行ってみるか。俺たちが本当に最後の能力者かどうかってのもまだわからないし。キャッスルなんてのも出てこないから、まだ生き残りがいるのかもしれない」
 士の言葉に、花梨は頷いた。本当にまだ他の能力者が残っているかは、かなり怪しい気もしたが、それでも最後まで希望を捨てたくなかった。二人は立ち上がると、公園をあとにして、再び夜の街の中を歩きだした。


「ねえ、エリック。今の状況、わかっているの」
 エリックのもとまで早足で近づくや、クラリスは怒鳴った。焦りと不安に、声の底が震えていた。
「ああ、十分わかっている」
 クラリスとは対照的に、エリックは至って冷静な声で答える。彼方の空を見つめるその瞳も、揺れることはなかった。
 ここは、名古屋市の北の、北名古屋市の廃ビルの屋上だ。名古屋から引き上げたCCIのメンバーは、名古屋がどうなるか見届けるため、隣のこの市に留まっている。ここにはCCIの施設はなかったので、隠れ場所として用意してあったこの廃ビルに皆集まっているのだ。そして先ほど、遅れて名古屋から撤退してきた監視員から状況を説明されたクラリスは、いてもたってもいられずこうしてエリックに話をしにきたのだ。
「わかっているなら、どうしてそんなに落ち着いていられるの。心配していた通りになっちゃったじゃない。稲玉士が水附花梨以外のすべての能力者の種のエキセントラ力を、水附花梨が最初の自分の種たった一つだけのエキセントラ力を持っている状態になっちゃったのよ。これじゃあ、ホワイトキャッスルを呼び寄せるなんてできない」
 もどかしげに、クラリスは言った。このままでは、帰れないかもしれない。せっかくここまで来たというのに、最後のチャンスかもしれないのに。不安を通り越して恐怖すら感じるクラリスに、しかしエリックは動じた様子も見せない。
「大丈夫だ、クラリス
「何が!」
 その場違いなほどの沈着ぶりに、思わず声を荒げてしまうクラリス。エリックは、それまで名古屋の方角を見ていた顔を、すっとこちらに向けてきた。
「……ここまで来たんだし、もう話してもいいだろう。実はこの方が、キャッスル出現の成功率は上がるんだ」
 クラリスは、すぐにはその言葉の意味が呑みこめなかった。それはあまりに突飛な内容だった。怒鳴るのも忘れ、ぽかんとする彼女に、エリックは淡々と話し始める。
「私はこのプロジェクト実現のために、それこそあらゆる手を尽くし、あらゆる文献や資料を調べてきた。そして、それらの資料のデータを組み込んで、様々な計算を行った結果、あることがわかった。――最後に残る二つの種の持つエキセントラ力は、バランスよく分かれているより、むしろ大きく偏っていた方がいいんだ」
 信じられない気持ちで、クラリスはエリックを凝視する。彼は変わらず平静な声で続ける。
「前回のニューヨークの実験では、巨大なエキセントラ力を持つ二つの種の引力が、ホワイトキャッスルをこちらに引き寄せると考えていた。だが、その後も調べるうちに、引力のもととなる種が二つあっては、キャッスルが引き寄せられる軸が定まらなくて、かえって失敗してしまうとわかった。それよりも、強いエキセントラ力を持つのは一つの種だけで、それがキャッスルを引き寄せるのを、もう一つの脆弱な種が補助する形を取る方が、ずっと成功率は上がる」
 エリックは、その顔にかすかな笑みを浮かべた。
「だから私は、最初から、残る二つの種のエキセントラ力が不均衡になるように意図していたんだ。親種を能力者の一人に植え付けたのも、その能力者が能力無効化の力を持って実質無敵になれば、最後の二人のうちの強大な力を持つ方に成長するだろうという考えがあったからだ。そして能力者の中で、戦闘を嫌っていた者たちには特に監視をさせて、最後の脆弱な方の生き残りにならないか注意していた。そして名古屋へ召集をかけたときには、水附花梨がその最有力候補だったから、彼女の行動には特に気を配っていた。街に配備した狙撃手にも、彼女の戦闘に手を出す場合は、相手の方を撃つよう命じておいた。……そうして仕組んできたことの結果が、今の状況というわけなんだ」
 そこで、エリックは言葉を切った。それまでただ呆然と彼の話を聞いていたクラリスは、そこでようやく、震える息と共に言葉を吐きだした。
「……全部、あなたが計画していた通りだったというわけなのね。でも、そんなに重要なこと、私にも言っておいてほしかったわ」
 それを望めないのがこの男だとはわかっていたが、不満をぶつけずにはいられなかった。予想通り、エリックはあっさりとした口調で言った。
「それは無理だな。君も、私の秘密主義のことはわかっているだろう? 私は、すべてを自分の手の中で操りたい人間なんだよ。君はいささか融通が利かないところもあるから、新しい方法でやることに反発されるかもしれないと思っていたしな」
 そこで、不意にエリックは笑みを浮かべた。先ほどとは違う、どこか得体の知れなさを感じさせるその笑みに、クラリスははっとする。
「だが、ここまで上手くいくとは、正直自分でも驚いている。まさか、たった一つ分のエキセントラ力を持つ種と、それ以外のすべてのエキセントラ力を蓄えた種とが残るとはな。そして、場所も時間も最適な条件で、もうすぐその二つの種がホワイトキャッスルを呼び寄せる」
 エリックは、底に光を湛えた目でクラリスを見つめた。
「安心するといい、クラリス。今回は必ず成功する。君も、もとの世界に戻れるよ」
 笑いながら言うその声の裏に、何かぞくりとするものを感じて、クラリスは身震いした。
(……この人は)
 自分とは別の理由で、ホワイトキャッスル出現を望んでいる。そして、もしかしたら自分よりもさらに、それを渇望しているのかもしれない。
 底の知れないエリックの笑みを声もなく見つめながら、クラリスはそんなことを思っていた。


 辺りの闇が、少しずつ青い色に転じていく。ゆっくり顔を上げると、青みを増していく空の中に、星々が薄く溶け始めていた。
「もうすぐ夜も明けるな。……見つからないけど」
 横から声が聞こえてきて、そっと視線を落とすと、疲れたような士の顔が見えた。花梨は黙ったまま、小さく頷く。
 名古屋の街を、たくさん探した。探し回った。それでもどうしても、CCIの者を見つけることはできなかった。能力者にも、士が殺したあの男以降まったく会わず、まだ自分たちが最後の二人ではないかもしれないという希望は、もはやほとんど胸に残っていなかった。
 青い闇の中で佇んだまま、二人はしばらく無言だったが、やがてまたぽつりと士が言った。
「やっぱりCCIの奴らを止めるなんて、無理だったんじゃないのか。俺たちはしょせん、奴らの手のひらの上だ」
 どこか投げやりな口調だった。花梨は彼をじっと見つめ、そして言った。
「確かに、そうなのかもしれない。……でも、私は、たとえ彼らの手のひらの上でも最後まであがき続けたい。まだ諦めたくない」
 士の表情が、胡乱げなものになる。
「無駄かもしれなくてもか」
「無駄かもしれなくてもだよ。あがき続ければ、もしかしたら彼らの手のひらの上から飛び出すことができるかもしれない。ホワイトキャッスルが実際に出現するまでは、ううん、たとえ出現してからでも、私は彼らに対抗したい。それが何か意味を持つ可能性があるなら、私は最後まで戦う」
 言い切った花梨を、士は意外そうな顔で見つめた。
「……俺、昨日まで水附とはほとんど関わってこなかったけど。なんか見た目と違って、案外へこたれないんだな」
 やはり意外そうな口振りで、士が言う。花梨はかすかな笑みを口に乗せた。
「私だって、前からこんなだったわけじゃないよ。色々な人と会ったから……楓さん、テロリストの女の人、アン、ギル。色々な人が、私に思いを残してくれたから。自分の道をまっすぐ進んでいくっていうことを示してくれたから、私も、立ち止まらずに進んでいきたいって、そう思えるようになったんだ」
 ふうん、と、士は小さく言った。それからまた、二人は無言になって、青い闇がだんだんと薄れていくのを見つめていた。
 そろそろまた動き出そうか。そう口にしようとしたとき、横から白い光が差した。顔を向けると、立ち並ぶビル群の間から、太陽が昇ってくるところだった。その上に広がる真っ赤な朝焼けと、朝の日差しの澄んだ白い色とが、夜の闇を見慣れた瞳に沁みるように美しかった。
「綺麗だね……地上の世界がこんなでも」
 呟くように言うと、隣の士が鼻を鳴らした。
「別に太陽や空にとっては、地上の争いなんて何の関わりもないことだしな」
 その言い方が何だかおかしくて、花梨はくすりと笑った。そのとき、感謝の気持ちがふっと浮かび上がった。
「稲玉君、ありがとう」
 口にすると、士は虚をつかれたような顔をした。花梨はそんな彼をまっすぐ見つめる。
「こんな私に付き合ってくれて。稲玉君の言った通り、無駄かもしれないこんなことに、ついてきてくれて、ありがとう。ちゃんとお礼言ってなかったから」
 そう言って頭を下げる。顔を上げると、感謝されるのに慣れていないのか、何だか居心地が悪そうな顔しながらも、士は別に、と呟いた。
「俺だって、何だか知らないものに自分が利用されるってのは嫌だっただけだ。クラスメイトが死ぬかもっていうのも、気分がいいことじゃなかったし。それに……」
 彼は、そこでふっと息をついた。
「前にも言ったけど、その……俺は今まで面倒なことからはいつも逃げて、適当にやってきたけど、ここまで来てそれはもうできないって思ったんだな。親種なんてものを持って、能力者が死んでいく中で生き残って。それなら、どうせ逃げられないなら一度ぐらい、何か自分からやってみようかなって思っただけだ。死んだりする可能性もあるわけだし、その前に一度ぐらい、ってな」
 どこか訥々とした口調で紡がれたその言葉に、花梨はふっと微笑んだ。普段人と話していないから、喋り下手なのかもしれないが、今はその口調がかえって彼の本心を表している気がした。
 死なないでね。一緒に生き延びようよ。そう言おうとしたときだった。
 ――どくん。
 胸の奥が、鳴った。


 名古屋の上空の空気が、不意に揺らめいた。ひたすらに名古屋の方向を見つめ続けていたエリックは、その顔に静かに笑みを浮かべた。
「――来た」


 最初は、動悸かと思った。だがすぐに、そんなものではないと気づいた。
 心臓ではない。脈動しているのは、体のもっと奥深く。あの手紙を受け取り、能力を手に入れたときから、ずっと体の中に宿っていた灯のような小さな熱さだ。それが今では燃えるような熱さになって、どくどくと脈打っている。表情を引き攣らせて士を見ると、彼もひどく狼狽した顔をしていた。彼も同じものを感じているのか。
(……まさか)
 恐れていた時が、来たのか。
 慄然とする花梨の中で、熱さは今、目に見えない波動のようなものも発し始めていた。どくんと脈打つたびに、その波動も広がる。ふと、士の方からも、似た波動が押し寄せてくるのが感じられた。
 この二つの波動を、重ねてはいけない。直感的にそう感じ取った。だが、離れようとしても、意に反して足はまったく動かなかった。何もできない花梨たちの前で、二つの波動が、同時に広がり、そして、重なった。
 瞬間、イイィィイン、という、この世のものとは思えない不協和音が耳をつんざいた。ついで、凄まじい地響きと振動と共に、周りの建物が崩れていく。みるみるうちに、あらゆる窓が割れ、外壁が砕け、瓦礫と粉塵と化していく。倒壊の音に混じって、あちこちから人々の悲鳴が聞こえてきた。地面にも次々と大きな割れ目が走り、電柱や街路樹が何本も傾ぎ、倒れていく。
 とてつもない振動に、立っていることもできないが、しかし揺れているのは、地面だけではなかった。空間そのもの、この世界そのものが、揺さぶられ、奇妙に捻じれて歪んでいくのを、花梨は地面に這いつくばりながら感じていた。
 世界の終わり。そんな言葉が、頭を掠めた。


 突き上げてきた振動に、ずっと歩き通しだった足は呆気なく崩れた。律子は十六夜と一緒に地面に倒れ込む。
 傷に障ったのか、十六夜が耳元で呻く。律子は何とか顔を上げ、険しい目で崩壊していく街を見回したが、もうどうすることもできなかった。
 すぐそばの建物が音を立てて崩れ、瓦礫が降り注いでくる。律子は何もできず、ただ精一杯身を低くしながら、十六夜の手を握り締めた。


 目の前の空間、一際大きくひずんでいくブラックホールのようなその中に、ぽつり、と光がともった。花梨が見つめたその瞬間、それは一気に弾け、爆発的に広がった。鮮やかな光が、滅びゆく街を、歪む空間を、人々の悲鳴を、何もかもを呑みこんでいく。
 体の中の熱が、一層大きく脈打つ。その熱に覆われていく意識の片隅で、花梨は、目の前を染める光の向こうに、白く輝く巨大な城を見た気がした。


(担当・白霧)
ようやく終わりました! なかなかコンパクトにまとめられなくて、リレー小説なのに一人でこんなに書いてしまい、本当に申し訳ないです。
なんか稲玉士のキャラが変わっちゃった感……。でも、こうしないと進めにくかったんです。すみません。
一応、出来る限り伏線は拾ったつもりです。拾いきれなかった主な伏線を上げておくと、
・楓や樹が死ぬときの体の異変は何か
・楓の手紙が白紙になっていた理由
・マネジャーレターとは何か
・CCIが順仁を放置していた理由
・二つの世界の融合の結果何が起こるのか
・エリックの目的は結局何なのか
・タイトルの意味
ぐらいでしょうか。まあ、もう拾わなくてもいい気がするのも結構ありますが……。
最後、大取りは黒木さんです。どうかよろしくお願いします。