バナナチップ
確かにベンジャミンは腹が減っていた。もう一日以上は交替で車を運転していたし、その間ずっとわがままなアシュリーとマイペースなギルバートに挟まれていたのだ。そして彼が出発する前にデリで買い込んでいた食料のほとんどは、彼が食べる前に二人の腹の中…
「どうすればいいの?」 「やはり相手のいることだからね。相手の好むものを作らないと。相手を喜ばせることが肝心なんだ。」 どうやらルーシーは、ベンジャミンと二人で食事をするという考えが、いたく気に入ったようだった。 「相手を、ね…」 ルーシーは深…
もしも生きて帰ることができたなら、スマホは死ぬまでマナーモードにしよう。 そんなことを考えながら、ベンジャミンは調理台の陰から立ち上がる。 「うふふっ」ルーシーはとても楽しそうだ。「やっと見つけた」 「……見つかっちゃったね」ベンジャミンは肩を…
一方そのころ店の横手では、木箱の下敷きになった老爺がちょうど息を引き取るところであった。 彼の名前はスティーブン・グローブランド。『Banana Chips』の近隣に住む、心優しい男であった。年齢のせいかすこしボケているところはあったが、若い身空であり…
僕とギルバートは、少女に二階の居間へと案内された。中は暖かく、非常に快適だ。僕は至極丁寧に切り出した。 「やあ、ありがとう。本当に助かったよ。ぜひとも向こうに戻ってから、改めてお礼がしたいからアドレスを教えてくれないか?」 かなり直球ではあ…
ベンジャミンは、夜空を見上げた。星が見たかったわけではない。ちょっとした現実逃避をしたくなったのだ。今の彼には、爆弾処理班の気持ちがよく理解できた。 原因は、アシュリーだ。 彼女は、親指の爪を噛んでいた。 イライラがある閾値を超えると、アシュ…
ルーシーの目の前にある皿の上には四つのチップスが並んでいた。大きさは少し違うものもあるけれど、全て綺麗なきつねいろに揚がっていた。これならお客さんに出しても恥ずかしいことなんてない。 「でも、まだ足りないわ…」
ここは北米大陸でもっとも長閑なところだと、住民の誰もが思っていた。夏は蒸し暑く頻繁に雨が降る土地ではあるが、秋から冬にかけてはまあまあ過ごしやすい。何かと不便なことばかりの田舎町だが、助け合う機会が多いためかひとびとの交流は深い。事件らし…